[突然のベル]
ビックリした、まったく。
半日で片づいた大掃除の後、
先輩と世間話をしていたところへ、
けたたましく鳴り響いた電話のベル。
事務所はもう閉じていたから、現場の電話に回ってきたようだ。
「仕事おさめです。誰もおりませんので、
年があけてからおかけなおしください」
一気にまくしたてて、電話を切ろうとしたんだ。
ところが、
”待って!”の声。
チコ? と思ったけれど、まさかだよ。
きょうは、東北地方に行ってる筈だから。
だけど、チコだった。
長距離電話をわざわざかけてくれた。
何度もなんども、ぼくの名前をくりかえして確認してた。
”そうだよっ”て、答えたけれど、
たぶん上ずった声だったんだろうな、ぼくの声が。
とつぜんの予定変更で、いますぐ来るって。
到着が十時ごろになるから、駅まで迎えにきてほしいって。
みじかい会話だったけれど、いつものチコらしからぬ悲しそうな声だった。
いま、九時二十分過ぎだ、そろそろ出かけなくっちゃ。
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