2019年6月12日公明新聞
厚労省が支援プランを策定
厚生労働省が「就職氷河期世代」を対象とする就労支援プランをまとめた。正規雇用で働く人を増やす目標を掲げ、支援に本腰を入れる。プランの内容と公明党の取り組みを解説するとともに、今後の課題などについて、日本総合研究所調査部・下田裕介副主任研究員の見解を紹介する。
正社員増へ3年で集中実施
官民が地域単位で連携 教育訓練やハローワーク強化
就職氷河期世代に対する集中支援策の主な項目
厚労省は5月29日、少子高齢化がピークを迎える2040年を見据えた社会保障や働き方の改革案を取りまとめ、就職氷河期世代が安定した仕事に就くための支援策「就職氷河期世代活躍支援プラン」を公表した。
支援プランは、3年間の集中プログラムで、この世代の人を対象に地域単位で手厚い支援策を行い、正規雇用への就職を後押しする。
各地の支援体制は、都道府県ごとに自治体や労働局、経済団体、金融機関などで支援機関を設置し、支援計画や目標の進捗を管理する。また、経済団体から参加企業に、就職氷河期世代を対象にした求人募集や就職面接会への積極的な参加を呼び掛ける。
市町村レベルでも、きめ細かい支援体制を構築する。自立相談支援機関やハローワーク、ひきこもり地域支援センター、ひきこもり家族会などが協力して個別支援を実施。福祉と就職を切れ目なくつなぐことで、支援対象者の社会参加を助ける。
支援プランでは、教育訓練から採用まで継続的な支援を行う方針を明記。就労支援のノウハウ(手法)を持つ民間業者に教育訓練や職場実習を委託して正規雇用に結び付ける。併せて、採用実績など成果に応じて必要な費用を国が支払う制度を検討する。
ハローワークは、就職氷河期世代に対する専門の窓口や担当者を設置して個別の支援計画を作成する。求職相談だけでなく、関係機関と協力して生活面の支援も行う。
また、運輸や建設といった人手不足にある業界団体とも連携し、短期間で安定就労に結び付く資格取得を支える制度を創設するほか、現在、35歳以上の就労困難者を受け入れた企業に支給している「特定求職者雇用開発助成金」の対象要件を緩和し、企業側に積極的な採用活動を促す。
長期にわたり無業の状態にある人は、職業的自立の難しさに直面する場合が多い。そこで、15~39歳の人を対象にキャリアコンサルタントなどによる専門的な相談、コミュニケーション訓練を行う「地域若者サポートステーション(サポステ)」の利用年齢の上限を引き上げ、社会との関係構築を後押しする。サポステの専門知見を活用した支援体制を全国に整備する。
支援策は、政府が策定する「骨太の方針」(経済財政運営の基本方針)に盛り込まれる予定で、政府は就職氷河期世代への支援を本格化させる。
公明党は今年2月、雇用・労働問題対策本部のもとに「就職氷河期世代」支援検討委員会(中野洋昌委員長=衆院議員)を設置、関係者や有識者との意見交換をはじめ先進的な取り組みを行う自治体を視察するなど、精力的に活動を展開している。今夏の参院選重点政策でも同世代への支援を掲げている。
5月22日には、同委員会が根本匠厚労相と菅義偉官房長官に、支援に関する提言を提出した。提言の内容は、厚労省の支援プランに随所に反映されている。
「令和時代の人財プラン」と題した提言は、「一人一人の状況やニーズに応じたよりきめ細かで多様な支援を重点的に強化していくという視点が不可欠」と指摘し、官民協働による新たな支援の仕組みを創設するよう求め、厚労省の支援プランに盛り込まれた。
当事者の就労や社会参加を阻害する背景要因、家族の状況への対応も含む一括支援を推進するため、当事者の自宅を訪ねるアウトリーチ(訪問)型の支援を提案。厚労省の支援プランには、「アウトリーチ型の支援体制を整備」と明記された。
また、生活困窮者を含む無業者に対しては、サポステと生活困窮者自立支援制度の一体実施を要望。ひきこもり状態にある人への支援強化に向け、「ひきこもりサポート事業」の充実、年齢を区切らないひきこもりの実態調査の定期的な実施も促した。
このほか、支援に携わる民間支援団体の財政面や人材育成、ネットワーク構築といった運営のサポートを訴えた。
その上で「成果を3年だけで求めることなく、長期の関わりを視野に入れた取り組みとすべき」と指摘している。
当事者に寄り添う姿勢が明確
日本総合研究所調査部 下田裕介副主任研究員
就職氷河期世代の問題に対し、政府が初めて省庁横断的な支援策を打ち出したのは2003年の「若者自立・挑戦プラン」だった。以来、さまざまな支援策が行われてきたが成果は十分ではなく、今回、政府が支援策の本格的な見直しを行ったことは評価できる。
当初、今年4月の経済財政諮問会議で有識者が示した支援策は、問題の実情を踏まえた内容ではなかった。その後、公明党の提言や厚労省の調整もあり、就労支援と社会保障の観点を組み合わせた当事者に寄り添う姿勢を明確にした支援策となり、一歩前進した。
とりわけ、地域レベルでつくられる支援機関の中に、ひきこもりの家族会を加えた点は評価したい。問題の実情をより理解した人の声を反映させる取り組みは大切だ。就職氷河期を経験した同じ世代を擁するNPO(民間非営利団体)なども交えれば、さらに当事者目線に近い意見が得られるだろう。
課題も指摘しておきたい。教育訓練や資格取得への支援が盛り込まれたが、企業が求めるスキル(技術)に訓練プログラムが必ずしも合致していない現状を改める必要がある。正社員をめざす人にとって企業側が求める資格の取得支援かどうかも問われる。
とはいえ、支援策が当事者に周知されなければ意味がない。ハローワークにポスターを掲示するような従来の方法では足りない。SNS(会員制交流サイト)といったデジタルツールを駆使して確実に情報を提供すべきだ。
その上で、就職氷河期世代の支援で求められることは、従来とは異なる柔軟な発想に基づく政策運営である。
この世代は就労経験や熟練度の幅が大きく、望む目標や自立の姿も多様だ。正社員になれずに非正規を続けざるを得なかった人や、ひきこもりが続いてきた人は、自分を否定され心に深い傷を負い、外出することに苦労している人も少なくない。
こうした実情を基に自立のあり方を考えれば、企業に属して通い勤めることだけが社会的自立ではなく、例えば、この世代が比較的得意とするデジタルスキルを活用した在宅活動も選択肢の一つとして考えてもよいのではないか。
支援策は正社員になることを一つの目標に掲げているが、働き方や自立が多様化する中、それだけがゴールではないと考える人もいるはずだ。非正規雇用の定年後の年金受給の充実や処遇改善も並行して行い、将来だけでなく現在も含め、不安を和らげたい。
就職氷河期世代が抱える問題は、かつては「本人の甘え」「自己責任」といった認識が少なくなかった。しかし、不遇の時代を過ごした人たちへの支援を怠れば、今後は「貧困」の問題などに直面する恐れがあり、社会基盤や経済・社会保障の安定的な運営も脅かしかねない。対策が急がれる。
就職氷河期世代
1993年から2004年に学校卒業の時期を迎えた世代。90年代初めのバブル経済崩壊後に新卒採用に臨まざるを得なかったため、無業や不安定な就労環境に陥っている人が多く、現在30代半ばから40代半ばに当たる約1700万人に上る。このうち、正規雇用を希望しながら非正規で働く人は約50万人、仕事をしていない人は約40万人に及ぶ。
しもだ・ゆうすけ 1979年生まれ。2005年(株)三井住友銀行入行。06年(社)日本経済研究センター出向を経て、08年から(株)日本総合研究所調査部。専門は内外マクロ経済。