宮城谷 昌光 (著)
内容紹介
中国歴史小説の第一人者が、光武帝と呉漢、項羽と劉邦の生涯をたどりながら、ビジネスや人間関係における考え方のヒントを、具体的に平易な語り口で解説する。伊藤忠元会長、丹羽氏との対談も収録。文庫オリジナル。
内容(「BOOK」データベースより)
中国歴史小説の第一人者が、光武帝と呉漢、項羽と劉邦、商の湯王と周の文王の生涯をたどりながら、ビジネスや人間関係における考え方のヒントを歴史からどう学ぶかを、具体的に平易な語り口で解説する。伊藤忠商事元会長、丹羽宇一郎氏との対談も収録。
著者について
宮城谷昌光
一九四五(昭和二十)年、愛知県蒲郡市に生まれる。早稲田大学文学部卒業。出版社勤務のかたわら立原正秋に師事し、創作を始める。九一(平成三)年『天空の舟』で新田次郎文学賞、『夏姫春秋』で直木賞、九三年『重耳』で芸術選奨文部大臣賞、二〇〇一年『子産』で吉川英治文学賞、〇四年菊池寛賞を受賞。他の著書に『奇貨居くべし』『劉邦』『三国志』『呉越春秋 湖底の城』『呉漢』など多数。
宮城谷昌光氏の講演と対談、後書きに代えての語り下ろしで構成されていますので、全て口語体の表現になっています。内容が濃く、氏の中国古典への造詣の深さはさりながら、歴史を学ぶ楽しさを教えられます。氏の多くの作品に登場する人々が誰一人蔑ろにされず活写されている所以を、この書を読んで得心しました。多様性の受容を求められる今、示唆に富む一冊だと思います。
最近だと、漫画「キングダム」をマネジメントに活かそう!的なエントリーを良くFacebookなんかで見かけますが、歴史小説家がガチで書くとこうなるよ!という本。
経営学的な示唆も多いですが、宮城谷昌光さんの歴史小説家としての苦悩なんかも描かれており、歴史好きな人だったら誰が読んでいても面白いと思う。
■秦の始皇帝、政は選外。
取り上げられているのは、後漢の光武帝、前漢の劉邦、商(殷)の湯王、周の文王(創業者・武王の父)で、みんな大好き秦の始皇帝(政)は取り上げられていません。
確かに後継に失敗し、秦の統一王朝は40年程度で幕を閉じているので、中興も含めての厚みは、前漢(約200年)、後漢(約200年)、商(殷、約700年)、周(約800年)に分があるか。
と言いつつ、本を読むとわかりますが、どちらかというとそういう優位性でえらばれていると言うより、その人物や周辺の人たちをとりまく「言葉」で選んでいる気がします。まさに、「成功する人はことばを大切にする人だ」 by ドラッカー。
宮城谷さん自身、エドガー・アラン・ポーから派生した象徴主義の文体で作家を志していた、と言うこともあり、「言葉」への感度がもの凄い方。中国史の原書も含めて丁寧に考察される構造の解説は凄い。「維新」「岐阜」「後楽園」「偕楽園」あたりは、ぜんぶ周の国にまつわる言葉です。
■人はなんで歴史を学ぶのか。行動のデザインパターンを知る。
宮城谷さんは、「人が動いたときに、自分も動かざるを得ない人」こそが、歴史書を必要とする人だ、と言っています。ゴーイングマイウェイで、不動の心を鍛えるには、論語や孟子などの倫理書を読むのが良い。自分を変わる・変える人こそが歴史を読めと。
考えてみれば、歴史を動かした人は、大義、あるいは天命で動いている。天を写す鏡は民、だから民を見ろ、と周の文王も言っています。歴史は大勢の人間が関わって動くのであるから、ある種のパターンがないと、ダイナミズムが生まれないのかも知れない。
実際に、先例があると、人は納得するし、そこに運命を感じて心が動く。
日本人は三国志が好きなんで、なにかと語源をそこに置きがちですが、劉備の「三顧の礼」は殷の湯王が伊尹を迎えた事が起源。「隴を得て蜀を望む」は曹操が司馬懿を諫めるときに言った言葉ですが、オリジナルは後漢の光武帝が部下を諫めた言葉。
「大成するなら若いうちは遊べ」というデザインパターンも、大元は劉邦が47歳までヤクザ・任侠生活をしていたことが、中国や日本のメンタリティの一つになっているのではないか、と予測しています。(劉備は、劉邦信奉者だったので、かなり忠実にマネをしています)
水戸黄門事、水戸光圀も、若い頃は不良。それが素行を改めたのは、周の文王の2人の叔父「太伯と虞仲」の話に感動したから。
「太伯と虞仲」は、三男の弟の季歴(文王の父)に王位を譲るために国を出た。光圀も、三男で水戸家を継いでおり、後に彼らに倣って兄の子に家を継がせてます。余談ですが、光圀の号「梅里」は、その太白が居を定めた場所で、後の呉の国だそうです。
翻って、現代の経営・事業運営も、まさにそれをしていかないと大きな絵は描けない。
だからこそ、歴史を勉強するのは実用的なんだと思う。
他にも、
・革命の起こし方
・「孟子」の思想が戦国時代を正当化した
・経営の傍らに置くべき古典
・歴史小説を書く宮城谷昌光流のメソッド
など、いろいろ楽しめる本なので、Nextキングダムの一冊として、こちらの本はいかがでしょうか。
講演をそのまま文章化したのだろう。平易で読みやすい。中国をテーマにした歴史文学をおおく記してこられた著者は、当然のことながら中国古典への造詣も深い。その深い(なかには私見にすぎないものもあるが、説得力ある)知識を分けてもらえる。作家として、それらをベースに創作していく際のモンダイも示され、どのように克服されたか示される。著者の文学への真摯な思いが伝わってくる。また、中国古典の読書案内として読むこともできる。以下、すこし引用してみる。
〈ですから、中国のことに詳しくないかたが、中国の歴史を生に近い形で知りたいと思われたときには、この『十八史略』をお読みになるのが一番早いと思います。・・(p24「第1章 光武帝・劉秀と呉漢」)
〈日本人には『三国志』に興味をもち、そこから中国史の勉強をはじめられるかたも多いのですが、いきなり『三国志』から中国の歴史にはいっていっても、これはいったい、なんのことをいっているのだろう、とまごつくことがたびたびでてくると思います。ところがこの湯王と文王、ふたりのおもな事績をおさえておくと、それ以降にでてくる英雄や豪傑たちの話がぞんがいたやすく腑に落ち、ああ、あのことを指しているのだな、と中国史を理解する素地ができるにちがいありません(p101「第3章 殷(商)の湯王と周の文王 中国の智慧の原点」)。