テラとセネジェニックスジャパン、新型コロナウイルス感染症において幹細胞治療の開発を共同で実施、臍帯由来幹細胞治療の効果をメキシコで75名の患者で実施中
2020.05.28 21:29 マイライフニュース
先端医療支援事業を手掛けるCENEGENICS JAPAN(セネジェニックスジャパン)は、幹細胞治療の研究開発を行うテラと共同し、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に有効な“幹細胞”を用いた国内初の新たな治療法の開発に向けて、5月13日から、メキシコでの臨床研究を実施してきた。5月28日に行われた発表会では、同研究に携わったテラとセネジェニックスジャパンの2社から、研究成果の報告と幹細胞治療の新型コロナウイルスへの有効性、国内治験開始に向けた今後の展望を発表した。幹細胞治療の臨床研究では、セネジェニックス・メキシコが保有する、メキシコ国内で承認を得ており、米国FDAの基準を満たした臍帯由来幹細胞(UC-MSC)を用いて、新型コロナウイルス感染症によって中等度以上の呼吸器症状が出現している患者を対象に実施。治療プロトコルおよび臨床研究の成果を、セネジェニックスジャパンを介してテラに提供し、幹細胞を使った治療法の確立を目指す考え。
「当社は、がん治療および免疫研究の分野で、多くの治験を発表してきた。今回、セネジェニックスジャパンと新型コロナウイルス感染症の幹細胞治療に関する共同研究の提携によって、現在メキシコで行われている幹細胞治療の臨床研究の成果を提供してもらい、幹細胞を使った治療法の確立を目指していく」と、テラの平智之社長が挨拶。「新型コロナウイルス感染症で重症化した患者に対し、幹細胞治療が有効であるとセネジェニックスジャパンが見出したのだが、免疫技術を有する当社との共同開発が、新型コロナウイルス感染症の流行前の社会にいち早く戻すのに適していると判断されたことを光栄に思う」と、セネジェニックスジャパンと共に新型コロナウイルス感染症に苦しむ人々を救う力になれることに、並々ならぬ使命を感じている様子。「幹細胞治療の臨床研究の結果を受けて、9月には薬事承認ができるように、当社としては様々なアプローチを模索していくことが必要であると感じている」と、新型コロナウイルス感染症の流行を食い止めるためにも、短期間で薬としての承認が得られる準備をしていきたいと意気込んだ。
次に、セネジェニックスジャパンの竹森郁取締役が新型コロナウイルスに対する幹細胞の効能について講演を行った。「新型コロナウイルス感染症において、重症化を防ぎ死者を出さない治療薬の開発ができれば、単なる風邪と同じレベルとなり、世界は流行前の頃の生活を取り戻し、経済活動を再開できるようになる」と、死に至らしめることがなくなれば、新型コロナウイルス感染症に対して恐れる必要はなくなると語る。「新型コロナウイルス感染症は間質性肺炎を引き起こして死に至る。これは特発性肺炎とされ難病扱いとなっている」と、新型コロナウイルス感染症は、通常の肺炎とは異なる症状であることが、治療薬の開発を難しくしているのだと説明する。「新型コロナウイルス感染症で命を落とした人の肺には、新型コロナウイルスがいなかった。このことから、新型コロナウイルスは肺の中でサイトカインストームを引き起こし、間質性肺炎を発症させているという仮説が成り立つ」と、新型コロナウイルスが悪さをしに肺に入ってきたのだが、サイトカインストームが過剰に反応し、肺を壊してしまっているのではないかと推察する。
「当社が注目した幹細胞は、再生医療やアンチエイジング、アトピー治療、糖尿病治療等で使用されており、幹細胞は暴走を止め、壊れた肺を修復する効果が期待できる」と、様々な治療で高い効果を発揮している幹細胞を用いることで、過剰な反応を抑え、壊れた肺を元通りにできるのではないかと説明する。「すでに、UAEの研究施設が幹細胞利用の治療を開発。この治療法で73人が回復した」と、幹細胞にいち早く着目し、実際に効果があることを証明している国もあるのだという。「ただし、UAEの研究施設で用いられた幹細胞は自家幹細胞と呼ばれ、自分の血液を培養するものとなる。これは培養に時間がかかるというデメリットがある。一方、自家幹細胞とは逆に、他人の幹細胞を用いる他家幹細胞がある。培養スピードは格段に上昇するが採取ルートに難がある。そこで当社は、臍帯由来幹細胞を用いることにした。臍の緒で培養する幹細胞のため、拒絶反応も少なく、1本の臍の緒で10万人分の治療薬の開発が可能となる」と、臍帯由来幹細胞に着目した経緯について紹介。「さらに、子宮内膜由来幹細胞にも注目した。これであれば採取が容易で、培養も短期間となる」と、子宮内膜由来幹細胞についても臨床研究を行っていく考えを示した。
「今回、テラとの共同開発を行うことにした背景は、同社が樹状細胞がんワクチンを開発し、多くのがん患者(ステージIII、IVが多くを占める)を救ってきた会社でもある。兵隊のリンパ球に目印を教え、がんだけを正確に狙う技術を有している。こうした高い技術が、新型コロナウイルス感染症の新たな治療薬の開発に不可欠であると判断した」と、テラとの共同研究で、新型コロナウイルス感染症が流行する前の頃の生活に戻せるように、努力を重ねていくと語っていた。
そして、セネジェニックスジャパンの藤森徹也社長が、新型コロナウイルスに対する幹細胞治療のメキシコでの臨床研究の中間報告結果について講演を行った。「新型コロナウイルス感染症の感染者数は、世界で約550万人となっており、未だに増え続けている。新型コロナウイルス感染症の症状は、潜伏時間が1~14日とされ、最初は発熱や空咳、倦怠感など感冒症状が主となっている。また、ほとんどの患者が無症状で軽い症状となっている。ただし、約20%が中等度から重症となり、発症から1週間後に呼吸困難あるいは低酸素血症が現れ、急性呼吸器症候群(ARDS)となる」と、新型コロナ感染症の症状について解説。「ARDSとは、重症肺炎、敗血症や外傷などの様々な疾患が原因となり、重度の呼吸不全となる症状の総称。重症肺炎、敗血症や外傷などによって、炎症性細胞が活性化され、肺胞や毛細血管の細胞がダメージを受ける。その結果、血液中の水分やたんぱくがにじみ出て、肺に水がたまり、重度の呼吸不全が引き起こされる。1週間以内の経過で急に発症し、極めて予後が悪いのが特徴だ」と、ARDSについて説明。「しかし、感染者の肺の血管や間質からはウイルスが検出されないという報告もある」と、ウイルスが肺炎を引き起こす原因ではない可能性があると指摘する。
「そこで重症化する原因を探った結果、サイトカインストームが影響しているものと推察している」と、免疫機能の暴走であるサイトカインストームが起こり、通常はウイルス感染に対する攻撃手段であるサイトカインが、正常な細胞を攻撃してしまうことが肺炎の原因になっているのだと訴える。「新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認されたレムデシビルはあくまで抗ウイルス薬であり、ウイルスの増殖を抑えるだけとなる。ひとたびサイトカインストームが行ってしまうと、抗ウイルス薬で止めることはできない」と、抗ウイルス薬は、重症化した患者の治療薬として有効とはいえないのだと力説する。
「一方、幹細胞は分裂して自分と同じ細胞を作ることができる他、様々な種類の細胞に分化し増殖することができる」と、幹細胞について解説。「すでに新型コロナウイルス感染症の現場で幹細胞治療が使われ始めてきた」と、UAEの研究施設「アブダビ幹細胞センター」で治療を受けた患者73人全員が回復したのだという。「幹細胞治療では、重症度を上げ、患者が亡くなる大きな原因であるサイトカインストームを緩和・改善する効果があると考えられる」と、治療法の少ない、中から重症患者に効果がある可能性が高いとのこと。「肺組織の回復を促進する作用が幹細胞にはあると考えられている」と、UAEのみならず、中国、米国、イスラエルなどの国々で、新型コロナウイルス感染症に対する幹細胞治療の効果が認められているという。「他家細胞(他人の細胞)を培養したものを使うため、“off the shelf”で必要なときに使える」と、幹細胞治療の利点について言及してくれた。
「当社は現在メキシコにおいて、50名の新型コロナウイルス感染症患者に対し、臍帯由来幹細胞(UC-MSC)を用いた臨床試験を行っている。この治療プロトコルおよび臨床研究の成果をセネジェニックスジャパンを介しテラに提供する。そして幹細胞治療薬新薬の開発を目指す」と、共同研究の内容について説明。「臨床試験の結果、5月26日時点で、登録された症例数は9例で、このうち詳細が伝わった一例は、登録時ARDS重症度分類であったが、幹細胞投与後に急速に回復し、3日後には人工呼吸器から離脱した」と、臍帯由来幹細胞の治療について有効なデータが得られたとのこと。「さらに、子宮内膜由来幹細胞(MenSCs)についても研究。この幹細胞は免疫調節、特に免疫抑制の役割を発揮するなどの利点を持った幹細胞となっている」と、子宮内膜由来幹細胞について紹介。「子宮内膜由来幹細胞の長所は、経血内に存在し、副作用がほとんどなく安全だ。しかも原材料が無限で、免疫調節、特に免疫抑制の役割を発揮することから、サイトカインストームを抑制する効果が期待される」と、幹細胞治療薬の本命として期待されるのだと述べていた。
今後、セネジェニックスジャパンでは、子宮内膜由来幹細胞による臨床研究の中間報告を6月22日に行い、7月末には臨床研究を終了させたい考えを示した。
テラ=https://www.tella.jp/
セネジェニックスジャパン=https://cenegenics-japan.com/