継がれゆく“魂”刻んだ向日町記念/記者が見た記憶に残る一戦
9月8日 向日町競輪「平安賞」決勝(アオケイ・宮本彩記者)
決勝並び
窓場千加頼(黄・5番車)は脇本雄太(紫・9番車)に1/8車輪だけ先着され2着(写真提供:チャリ・ロト)
⑤窓場千加頼-①山田久徳-④大森慶一 ②松谷秀幸 ③清水裕友-⑥松岡貴久 ⑧大槻寛徳 ⑨脇本雄太-⑦武藤龍生 決勝の初周は前受けが窓場ライン。中団が脇本ラインでその後ろに松谷。後ろ攻めは清水ラインで単騎の大槻がその後ろとなった(⇐⑤①④・⑨⑦・②・③⑥・⑧)。赤板前から上昇してきた清水は中団の脇本をフタするような形。外併走で2コーナーから清水が発進し、単騎の大槻が続き、窓場は中団へ収まる。 打鐘過ぎに松谷が内を掬い、前々に踏んだ動きで脇本と窓場はタイミングをズラされる形になったが、先に仕掛けたのは8番手で立て直した脇本。それに併せるように最終バック手前から窓場も発進。窓場の勢いがよく地元記念を獲るかに思われたが、僅かに外々伸びた脇本が1/8車輪の差で優勝となった。
向日町競輪場はこれから約5年を見込む大規模改修工事へ(写真提供:チャリ・ロト)
レース後の窓場は「30メートル線で勝てたと思ったけど、行かれてしまった。僅差とはいえ、まだ足りないってことでしょう。いい経験になったし、今後の糧にしたい。次の平安賞では成長した姿を見せたいですね」と悔しさを滲ませながらも輪界最強の脇本としっかり力勝負し、コメント通りにガチンコの戦いを披露した。見ているお客さんや記者だけでなく、そのレースを見ていた他の選手達も熱くするような白熱したレースだった。
今では味方が集まったならどう折り合うか、自力同士ならどうするか。ラインを強固にするならひとつでまとまった方がいいと考えるのが自然だが、選手によって考え方は様々だし、時と場合によるがまとまるなら「番手勝負」を挑むなんてこともある。
この平安賞が印象的だったことをはっきりと感じたのは終わってすぐの松戸F1開催。そのときは近畿の自力選手が多くいたのだが、2日目以降に自力選手同士が一緒の番組になったときに『向日町で脇本さんと窓場さんが近畿はガチンコ勝負って言っていた。だったら自分らもガチンコ勝負で!』と気合が入っていた。この激闘譜というテーマでどのレースを選ぼうかなと考えていたときにそんな風景を思い出した。
ラインを強固にするためにまとまる選択肢を取るのが“おおかた”だが、勝ち上がったメンバー構成やそのときの状況によっては違う選択肢も出てくる。今回の平安賞は『近畿としての戦い方』を現したというのもあるだろうが、地元として挑む窓場の気持ちがヒシヒシと現れた印象的な開催だった。
2024年9月8日向日町記念「平安賞」決勝(写真提供:チャリ・ロト)
今年の平安賞は向日町競輪場がしばらく大規模改修工事をするとのことで、今の向日町競輪場での記念は最後となった。まさかそんな大事な平安賞へまだまだペーペーの自分が取材に行くとはびっくり。しかも初めての向日町競輪場だ。初めて現場に取材へ出るような緊張感を持ちながら競輪場へ向かったのを覚えている。
競輪場がどんな変化を遂げるのかは分からないが、地元勢にとっては慣れ親しんだ競輪場での最後のレースになるし、開催前からかなり気合が入っていた。更に、地元勢だけでなく近畿勢全体で気合が入っているのを肌で感じた。
その中でも注目していたのは窓場千加頼だ。今年のウィナーズカップ決勝で窓場-脇本-古性で並び、窓場の果敢な先行から脇本-古性が抜け出し、貢献する走りで魅せた。そのレース後に2人からの賞賛を受け、涙を流していた様子が印象深い。そこからも目を見張る活躍で、手を伸ばせばS班も可能な位置まで力を付けて上位陣の仲間入りを果たした。
本領を発揮し始めた窓場が挑んだ特別な「平安賞」。初日特選は北井佑季を強引にだが叩くことに成功。ただ、番手の脇本の位置に飛び付く形となり共倒れの展開。その悔しさを胸に一戦一戦集中力を高めながら最低ノルマでもある決勝まで駒を進めた。
決勝に勝ち上がった地元のメンバーは窓場、山田久徳の2人。そして同じ近畿の脇本。清水裕友に西で松岡貴久がお任せするのは想定通り。一番重要視されるのが近畿の並びなのだ。これは記者の間でも色んな考察が飛び交ったし、大森慶一、大槻寛徳の東北勢、南関で1人の松谷秀幸も近畿勢の動向を見守ってからのコメント出しになっていた。並びが決まるまで少々時間を要したが、最終的には窓場-山田の地元両者と脇本で分かれることとなった。
競輪はライン戦。勝ち上がりにどれだけ多くの味方を増やせるか。ラインが長くなることも珍しくなかったし、まとまる選択肢ももちろんあったと思うが、悔いのない平安賞にしたいという窓場の強い思いがあった。脇本も地元の間は割れないという思いからこの並びに落ち着いた。「近畿はガチンコ勝負」と先輩達が築き上げた勝負魂を決勝の場で披露することになったが、この選択には現在は解説者として活躍している村上義弘が直前のトークショーを行った際に嬉しさを口にしていた。
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