谷村悠介議員に対する辞職勧告決議案が開会された9月県議会の冒頭上程され、自民、公明、無所属の県議の賛成で可決されました。私たち会派「かけはし」は、絆、共産と共に退席いたしましたので、その理由を説明します。
今回の決議は、谷村県議から自民党県連会長の県議会議員に出された手紙が問題とされたものです。内容は入党を求めないことへの抗議などですが、その表現が問題です。手紙に用いられた用紙が不祝儀用の熨斗紙であり、「閻魔様からのお迎えが来る」「窮鼠猫をかみ殺す、合掌」という不穏当な文章があったからです。判例に照らせば、人を畏怖するに足る生命への害悪の告知をしたものと考えられ、構成要件的には、脅迫罪を構成されるものではないかと考えます。しかし、検察官の起訴便宜主義を採用する我が国の司法体系の中では、初犯の者が起訴されるのは、かなり大きな犯罪である場合に限られ、その多くが不起訴処分となっております。そうなりますと、谷村議員の行動は、司法的制裁を加えられることなく済んでしまうことなり、法益を侵害された方の被害者感情を考えるとき、容認できないという結論に至ったことは理解ができますし、確かに県会議員としての品位を疑わざるをえません。
しかしながら、この問題は、県民の権利と自由を擁護すべする県議会の対応であることを考えなければなりません。憲法31条は罪刑法定主義を定めているものですが、その射程は刑事罰を超え、行政手続きなどにも広く適用されるべきことは、タクシー免許申請を巡って争われた裁判や成田新法を巡って争われた裁判などで判示されたところです。特に、第三者所有物の没収を巡って、関税法118条の合憲性が争われた訴訟で、最高裁は昭和37年11月28日、告知、弁解、防御の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であって、憲法の容認しないところであると明確に判示しています。辞職勧告決議案が可決されれば、谷村議員の不利益になることは間違いありまん。 しかし、本人に弁解の機会も与えず、事実の確認もすることなく、議会開会日に上程し、即、議決というのは問題だと思うのです。民主主義は手続きを重視するところが、独裁主義と違うところです。谷村県議に告知、弁解、防御の機会を一切与えることなく議決することは、人権上、また、民主主義の立場から許されないのではないかと考えます。
現在、倫理条例が議会改革推進会議で議論されており、今後、議論が進めば、政治倫理審査会等の設置が検討され、告知、弁解、防御の機会を与えたうえで、勧告決議となるでありましょうが、現在はまだ、そこまで至っておりません。そこで、私たち会派「かけはし」は議会運営委員会の中で、谷村議員の弁解等を聞くことを提案しましたが、受け入れてはもらえませんでした。憲法31条は日本のdue process条項であり、人権と自由を守る上では手続きを大切になければならず、それが民主主義の本質であると考えます。弁解や防御の機会を一切与えることなく、提案後、即座に議決することは問題が多いと考えますので、この段階での辞職勧告決議案の可決には賛成することができないのです。
辞職勧告決議案を巡って、これまでの歴史を調べてみました。国会議員の場合、決議案の可決で辞職したのは、戦前戦後を通して、1904年(明治37年)3月28日、衆議院で秋山定輔議員がロシアのスパイであるとの疑惑から決議案が可決され、翌3月29日に議員辞職された1例があるのみです。戦後は、オレンジ共済事件で1997年(平成9年)4月4日、友部達夫参議院議員に対する辞職勧告決議案が可決されたのをはじめ、2002年(平成14年)6月21日、収賄罪で逮捕された鈴木宗男衆院議員に対して、2003年(平成15年)3月25日、政治資金規正法違反事件で逮捕された坂井隆憲衆院議員に対して、2006年(平成18年)3月17日、弁護士法違反で起訴された西村眞悟衆院議員に足して、可決されていますが、4人全員が辞職を拒否し、友部参院議員は有罪確定まで約4年間在職し、残る3人も衆院解散まで議員でいました。
地方議会でも、議員の辞職勧告決議は多数可決されていますが、ほとんどの場合、辞職していません。ちなみに、都道府県議会では、この10年の間に9人に対して、10件の決議案が可決しています。福島県の須賀川市議は飲酒運転で逮捕され、昨年10月から今年3月までの間に、4回の辞職勧告決議を受けてやっと辞職したほか、名古屋市議会でも、ポルシェで当て逃げをした市議に対して今月11日辞職勧告決議を全員一致で可決しましたが、辞職を拒否され、河村市長らの説得工作も不調に終わったことから、27日から始まる定例会に再度、議決案が提出されることになるそうです。
かように法的拘束力のない議員辞職勧告決議案を可決したとしても、多くのケースでは辞職が拒否され、長い間、議会が混乱するという状況が続くことも希ではありません。私たち会派「かけはし」は、法的拘束力がなく、可決したとしても意味の薄い議決は、県議会として、できる限り、避けるべきだと考えます。
さらに前例を調べていると、ほとんどのケースが逮捕、起訴、有罪判決の確定など司法的判断の節目でなされており、今回のように、まだ、告訴告発もされていない段階で、辞職勧告決議案を可決することはいかがなものかとも思います。
そして、今回の手紙は、自民党県連会長である県会議員と谷村県議の間に生じたもので、県政に関する者ではありませんので、告訴するなり、話し合うなり、両者の間で解決を図られるべきもので、議会で議論をするべきではないと思うのです。
以上のような理由から、議員辞職勧告決議案には賛成出来ません。しかしながら、今回の問題について、常軌を逸する、まことに品性を欠く手紙を出されたこと自体は、谷村県議は認めておられます。この行為そのものは、議員である以前に、社会人として許容されるものではなく、谷村議員を容認することもできません。私たち、会派「かけはし」は苦渋の選択として、議決に際して退場することに致しました。
報道の中では、私たちの退場だけが報じられ、その理由が報じられないものがありましたので、長くなりましたが、説明をさせていただきました。県民の皆様のご理解を賜りますようお願いを申し上げます。
本日から9月議会です。県民の皆様の暮らしは大変です。少しでもお役に立てるよう全力を尽くして参ります。どうか傍聴にもおいで頂きますようお願いを申し上げます。
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