農林水産商工常任委員会県外調査2目の調査は、宮城県庁に場所を移しました、
県議会事務局の菅原議会事務局長が東日本震災の被害概要が説明され、「今なお8人の鳥取県職員が応援に来ていることを感謝しています。議会にとりましても、契約額5億円以上の議決案件は、震災前は5~6件でしたが、復興事業の本格化により昨年は80件、今年度は230件、変更も入れると300件を超えるようになりました」などとお話いただきました。
メインのテーマは「農業農村の復旧復興」です。郷古農地復興推進室長から説明を受けました。以下はその概要です。
私が所管する農業土木の分野では発災直後応援をいただき、鳥取県からは3人の職員の派遣をいただいている。28都道府県から68人の応援を得ており、全職員230人のうち、4人に1人が応援のみなさん。心から感謝している。
被害は栗原市で震度6強を観測し、これが一番ひどい揺れだった。しかし、被害を大きくしたのは津波。死者10436人、行方不明は1308人にものぼり、数日前も海岸で白骨遺体が見つかったと報道された。定期的に捜索は続けている。県内の被害総額は9兆1828億円。県予算が約8000億円なので、その11年分を超える。農林水産被害は1兆2952億円だが、うち津波によるものは1兆2537億円と津波被害が本当に大きかった。農業被害は約5454億円。県内の農地は海抜ゼロメートルが多く、揚水機が必要だが、この被害が大きかった。農地は除塩が必要。農地や農水路への瓦礫の流入もあった。
「宮城県震災復興計画」を平成23年10月18日に議決した。復旧期3年、再生期4年、発展期3年の計10年で宮城県の復興を成し遂げる。復興のモデルというべきものを構築し、復旧に留まることのない抜本的な再構築を基本理念とした。
「みやぎの農業・農村復興計画」も復興計画と共に策定した。
3月の被災だったため、梅雨までに揚水機場を何とか再稼働させた。早期の営農再開を目指すためだった。応急排水対策は重要だ。仙台空港は水田の中にある。排水機場は応急復旧しないと空港も再開できない。農業だけでなく、宮城県の経済全体に影響が及ぶ。加えて瓦礫の撤去、ご遺体の捜索にも必要だった。それで、応急でいいからと早急の復旧を目指した。ポンプメーカーの協力を得て、モーターの洗浄など仮稼働のための必要最小限の機器整備で早期復旧を果たした。
災害復旧事業は2449件1160億円の復旧事業を決定。7地区で農林省直轄事業として10事業に932億円が投入されろ。東日本大震災復興交付金を活用している復興事業は現在18地区の4299ヘクタールで713億円の規模で事業展開している。住宅地の処理、防災のための公共用地の創出などのために広域的な区画整理が必要だ。離農を希望する人も多く、単なる原形復旧では耕作放棄地化するおそれがある。未整形の水田の中には復旧が現実に不可能なものも少なくない。だからこそ、農地整備事業は復興のための最も重要な事業のひとつと考えている。
復興復旧のロードマップを公開し、農家の方と一緒に進めている。復興交付金は平成27年度までしか使えないスキーム。普通は計画に4~5年、着工から完成まで10年というのが農地整備の工程だが、時間がないが頑張って進めている。
農地復旧は被害の少ない内陸部から着手した。ポンプを復旧したら瓦礫や堆積土を撤去。排水のための弾丸暗渠を施工した。熊本県が高潮被害からの復旧のノウハウをお持ちなので、そこから学んだ。石灰質の素材を散布して化学的に除塩をしている。
津波をかぶったのは1万4000ヘクタール。復旧対策が必要なのは1万3000ヘクタールで県内全農地の1割。農地は85%に復興事業に着手、59%が完了した。ポンプ場は70%に着手。30%が完了したが、応急対策を含めると排水能力の80%を確保している。ただし、騙し騙し運転しているような状況で、いつ動かなくなるか心配している。
今後の課題も多い。その第一は技術的な課題だ。瓦礫の撤去は環境庁の所管で市町村が対応することになったが、対応がでない県南部5市町の5600ヘクタールは県が実施することになった。小さな鉄くず、ガラス片などが農土に混入してしまって、大型機械では除去が困難だ。回転式のフルイ分け分別機械(トロンメル)を導入したほか、地域の農業者で復興組合を作ってもらい国に作ってもらった被災農家経営再開支援事業で10アールあたり3万5千円を支払い、人力作業による除去作業も進めている。これは農家への収入補填というメリットもある。
除塩では用水の確保が課題。河川を利用する場合は、河川管理者との協議が必要。既存水利権の範囲外では新規許可で用水を確保した。しかし、塩分濃度が下がらない土地もあり、継続してモニタリングしながら作業を継続している。
広域の地盤沈下も問題になっている。海抜ゼロメートル区域が3.4倍に拡大した。機械排水時間を延長しているが、経費がかさむ。塩分農土が下がらない土地では、排水ポンプの排水能力を上げている。今は忘れ去られようとしている干拓の技術も学んで対策を考えている。
第二の課題は財源の確保だ。復興特別交付金がなくなれば県内市町村は即、財政再建団体になる。平成27年度の期限を延長することが必要だ。しかも、「復興庁ではなく査定庁」と知事が避難したほどでハードルの高い、使いにくい部分がある。それで、通常の農地整備事業の場合、国50%、県27.5%、市町村10%、農家12.5%の負担割合だが、農山漁村地域復興基盤総合整備事業では、国が50%、地方負担50%が基本として示された。被災した農家や地方自治体に負担を強いることは復旧を遅らせることになる。農水省とかけあい、最終的には国75%、県17%、市町村8%というスキームにしてもらった。地方負担分も復興特別交付金として加算されることになった。これで計画は実施に移せるが、やはり、事業が遅れ、復興特別交付金がなくなったらどうしようかという不安は今もある。
第三の課題は競争力のある経営体の育成だ。沿岸部が津波の危険地帯として認識されるようになったため、住宅は内陸部に集団移転する。すると、沿岸部に農地だけが残ることになり、生活と生産の場が分離されることになった。沿岸部農地へ生産組織を誘導し、競争力のある経営体を育成することが必要になった。その中心は生産規模の拡大だ。
農地整備事業の新規地区の計画では現在4ヘクタールを超える農家は7%しかないが、これを61%にまで引き上げる。農水省が被災地域農地集積支援金として地権者組合に土地を提供し、組合員となった農家は30万円~70万円の協力金を受け取る。被災農家でつくる生産法人に、県は農業経営高度化促進事業として、地権者組合から農地を借りる場合の賃借料は一括して前払いすることを条件に財政支援し、市町は被災地域農業復興総合支援事業として農業機械やハウス、共同利用施設などを生産組合にリースする。県や市町の事業には国は復興交付金で支援するというスキームで、農地の集約化を進めたいと思っている。
被災農村では住宅跡地を市町が買取り、高台に移転する防災集団移転事業に取り組んでいるが、事業が進むと農地の中に買い上げた住宅跡地が点在し、未利用のまま耕作放棄化する可能性が高い。そこで、土地改良法の換地制度を利用して、住宅跡地を防波堤の用地や道路用地にする換地処分を行い、土地利用の整序化を進めることで大規模な農地整備へ繋ぎたいと考えている。
第四の課題は地方自治体のマンパワーが不足していることだ。平成22年度は139億円の予算が、今年度は454億円。宮城県職員だけではこれだけの事業を遂行することは無理だが、ありがたいことに全国から応援職員が来ていただいている。鳥取県からも3人の農業土木技師の県職員を派遣していただいている。28都道府県から68人の応援を得ており、農業土木技術職員279人のうち、実に4人に1人が応援のみなさんだ。心から感謝申し上げたい。
説明の後、質疑応答に移りました。私は以下の2つの質問をさせていただきましたが、丁寧にお答えいただきました。
Q 農地の集積化などハード部分はなるほどと思ったが、やはり、売れる農産物を生産できるようにしないことには農村の復興とはいえない。農産物のブランド化や販路促進ではどんな施策を展開されようとしているのか。
A おっしゃる通りです。震災と関係なく農業の置かれた状況は厳しく、農業振興にはそこの部分が大事だ。私たちのようなハード部門だけでなく、ソフト部門とも一緒になってやっている。宮城県の農業は米に特化している。美味しいお米という付加価値を活かして、頑張っていきたい。
Q 換地による農地整備は理想的だとは思うが、例えば相続などで権利関係が複雑になっている、あるいは、きちんと相続の手続きがなされていないといった農地も想定できる。そうなると事務処理が大変になるのではないだろうか。
A その通りで、天文学的な手間になる可能性もある。市町による住宅跡地の買取は進んでいるが、これから農地となると相続がきちんとされていないと大変。土地改良法では土地所有者の3分の2の賛成があれば、換地処分ができるが、土地収用法は農地には適用できない。そうなると権利者全員の同意を取る必要が生じる。土地改良法の類推適用ができないかなど今、研究しているところだ。
丁寧な説明をいただき、宮城県庁の皆様に感謝しています。震災復興の前に、やはり、日本の農業そのものが抱えている課題の解決が必要であり、そこは鳥取県の課題とも重なります。大変な被害でしたが、復興のための諸制度をうまく利用され、ピンチをチャンスに変えて抜本的な再構築が成功するよう祈念したいと思います。
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