マタイ受難曲はバッハの最大かつ最高傑作であるだけでなく、クラシックの長い歴史の中でも比肩するものを見つけるのすらむずかしい作品でしょう。私自身、よく言われるドストエフスキー体験と同じような意味で、「マタイ受難曲体験」があります。
これがかのムジークフェライン・ザールで聴けるというプログラムに惹かれて、行ったのです。ところが、演奏はどうもセミプロ程度のもので、例えばその前に横浜で聴いたカール・リヒターのような緊張感はぜーんぜんない、日曜日の午後にふさわしいのどかなものでした。思わずうつらうつらしながら(コンサートやオペラで居眠りするのは至高の贅沢だと思いますw)、お付き合いをしていたら、コラールを歌っているソプラノパートに目を引き付けられました。
その2、3人の表情や旋律に合わせてわずかに動くブロンドの髪を見ているうちに、「あ、見えてるんだ」とわかってしまいました。ぞくっとしました。ここにイエスがいる。それが彼女たちには、はっきり見えていて、悩み苦しむ彼に向かって自分たちの歌を捧げているのです。
もうテクニックなんかは関係ありません。だって、そんなものは人間に対するものだから。全知全能の存在は、その人の魂を丸ごと見ることができるから。そう思って歌っているのだと感じました。……今までと違った感動に襲われるとともに、これは日本人にはかなわないなと思わされました。
もちろん冷静になってみれば、バッハの演奏には高度のテクニックが必要なのは当然だと思い直しました。シュッツ以来のドイツ系音楽やイタリア系の協奏曲やオペラなどなどに通暁しているのは当然として、聖書やルター派についての宗教的知識も必要です。磯山雅さんはこの曲だけでかなり大部の書物を書いておられますが、それだけ巨大な作品なのです。しかしながら、たとえテクニックと知識が100%あってもそれだけでは、この曲の演奏は不十分で、空虚です。心と呼んでも、魂と呼んでもいいのですが、そういう精神的なもの(直接信仰心があることを意味していません)がやはり100%なければバッハと、バッハが表現しようとしたその向こうの存在は現われないと思います。
頂きました。また嬉しく拝読させて
頂きました。上の御写真はピエタ像で
ございますね。
拝読させて頂きまして、最後の
精神性に関します御考察、特に共感させて
頂きましてございます。
この文を読んで、さっそくネット上からマタイ受難曲(サイト運営者の手作り製)をダウンロードして聴き始めています。
もし、指揮や演奏のいけてるCD等知っていたら教えてください。
カール・リヒター指揮、ミュンヘンバッハorc&cho
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、イングリッシュ・バロック・ソロイスツ
鈴木雅明指揮、バッハ・コレギウム・ジャパン
の3種類です。リヒターはバッハのオニwで、高い精神性を持っていますが、現代楽器で、アプローチも今ふうではないかも。オリジナル楽器のガーディナーと鈴木は、一長一短って感じで、どっちもお薦めです。
まあ、私は演奏の違いってあんまりわかんないし、1つの曲で(それがたとえマタイであっても)何枚も持って聞き比べするタイプじゃないので、不十分な答ですみません。
それよりもマタイは歌詞がわからないと意味ないし、対訳を追っかけながら聴くのも大変なので、DVDのいいのが出ないかなぁって思ってます。鈴木のヨハネ受難曲のDVDがいろんなことがわかっておもしろかったので。
また拙ブログでリンクさせていただきました。(ご迷惑な場合はおっしゃってください)
バッハの四大宗教曲の一つ「クリスマス・オラトリオ」は、ガーディナー指揮のDVDがとても素晴らしい出来でした。BCJのヨハネ受難曲のDVDは、残念ながら、在庫切れで買えませんでした。
DVDでオーケストラの映像を見ながら音楽を聴いていると、やはり、音楽は聴くだけじゃなくて同時に見るものだな、と思います。
BWV54と言えばカンタータ「罪に逆らうべし」ですね。
これからもよろしくお願いします。