夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

サティの形をした3つの小品~3 Morceaux en forme de SATYw

2005-07-13 | music

 今回のアイディアはサティ嫌いのyuhotoさんのお蔭です。ありがとうございました。

①家具売り場
 エリック・サティ(1866-1925)は、音楽をコンサートでうやうやしく演奏されるものでなく、家具のような身近で何気ないものにしようと考え、家具の音楽というのを作曲しました。それを画廊で演奏したところ、客は会話をやめて、聴き入ってしまったので、「しゃべり続けて!音楽を聴かないで!」と叫んだとか。自分の曲が静聴されて怒った最初の作曲家でしょうw。
 でも、この発想はまさにBGMであり、またクラシック音楽の陥っているスノビズムへの批判としても先進的なものだと思います。私の持っているCDには「県知事の私室の壁紙」、「錬鉄の綴れ織り」、「音のタイル張り舗道」が家具の音楽として収められていますが、私は壁紙になる音楽というアイディアをおもしろく思い、物語に使ったことがあります。ただし、音楽としてはぶんちゃか、ぶんちゃかってのがずっと続く……だって模様だもんって感じで、BGMにもならないような代物ですけど。
 もっとすごいのが「ヴェクサシオン」っていうピアノ曲で、“いらだち、自尊心を傷つけるもの”って意味だそうですが、主題と2つの変奏からなる短いモティーフを「連続して、ゆっくり840回反復する」と指示されています。これをその指示どおり、1963年にジョン・ケージたち10人で交代しながら演奏(本当の意味での世界初演)したところ、18時間40分かかったそうです。指輪以上かなw。

②海産物売り場
 なまこ、エビと言えばおいしいですし、カタツムリ=エスカルゴだってちょっとしたスーパーなら缶詰や冷凍食品で売ってますね。ただニースの食料品店にはなかったので、そこのおやじに「やっぱりああいうのは食べないの?」と訊いたら、「パリの奴らはな……」と笑いました。「干からびた胎児」は「なまこの胎児」、「甲殻類の胎児」、「柄眼類の胎児」の3曲からなります。柄眼類って角の先に眼のあるカタツムリなんかを言うそうです。
 サティは楽譜にいろんな言葉を書き込みしていて、ずっと昔に高橋悠治がその詩のようなもののナレーションをつけてこの曲や「役人のソナチネ」(小官吏の一日を描いたものですから「官僚的なソナチネ」という訳は違うように思います)などを演奏したのをFMで聴いて、音楽とシンクロしながらどこかズレも残してるところとかが、すごくおもしろかったのを憶えています。解説をつけるとかじゃなく、演奏家を言葉でも刺激しようとしていたように思います。
 でも、こういう生き物の胎児?しかも干からびた?わけわかんないですね。なんかの風刺か当てこすりなんでしょうか。老人になってアカデミズムにくるまれている音楽家とか。でも、風刺ってそのときの状況が失われちゃうとわからなくなりますね。

③旅行代理店
 彼の曲でいちばん有名なジムノペディは、古代スパルタの儀式で、神殿で裸の男たちが集団で神に踊りを数日間にわたって捧げるというものだそうです。こじゃれたお店のBGMかと思っていたら、意外ですね。ギリシアへの傾倒は相当なものがあって、グノシエンヌもクノッソス島とか、キリスト教神秘主義の「グノーシス派」が由来だとか言われていて、いずれにしてもギリシアっぽい言葉です。音楽劇「ソクラテス」はその死を描いた厳粛な音楽で、ギリシア物では嘲笑的な態度は見られません。
 「でぶっちょ木製人形へのスケッチとからかい」の第3曲は「エスパニャーニャ」というスペインの猫みたいなタイトルですが、シャブリエやラヴェルやドビュッシーらのスペイン趣味をからかったものです。どうも最初は反ヴァーグナーあたりで相通じるものを感じていたドビュッシーが次第に権威となり、気取ったふうにも見えたんでしょう、いろいろちくちくやってます。
 それにしてもサティって、音楽家以外にも付き合いの広い人です。ピカソ、コクトオ、ディアギレフ、ルネ・クレール、ピカビア、ココ・シャネル、マン・レイなどなど、古きよきパリの文化人の交差点の観があります。そして、唯一の恋人がユトリロの母にして多くの画家に愛されたシュザンヌ・ヴァラドン。

④Do It Yourself
 なんで4つめがあるの?って思った人は、サティにだまされています。「梨の形の3つの小品」は“始まりのようなもの”とか“おまけ”とかあって、全部で7つからなります。私はそんなに書きませんけどねw。
 「“真夏の夜の夢”のための5つのしかめ面」、「不愉快な概要」、「冷たい小品」、「左右に見えるもの――眼鏡なしで」、「いつも片目を開けて眠る見事に太った猿の王様を目覚めさせるためのファンファーレ」といったタイトルを見ているうちに自分でもやってみたくなりました。タイトルだけ考えたのでどなたか作曲してください。
 まずは、のだめ的に「音楽的不良債権小曲集」。第1曲“赤と黄で”左手で赤バイエル、右手で黄バイエルを弾きます。ドビュッシーをおかずに入れてもいいでしょう。第2曲“教授様のレッスンとインディーズ”指の上げ下げまで細かく指定した部分と青春のほとばしりを感じさせる部分(でも、著作権ぎりぎりまで猿真似で)からなります。第3曲“最終的解決としての再生産”任意のコンクール課題曲を12小節弾いたら、葬送行進曲(プレストで)になります。レントラーが投げやりに演奏され、バッソ・オスティナートで聞こえていたヤマハ音楽教室のテーマソングが全体を覆い、結婚行進曲を打ち消します。この曲集を弾くと親指が痛くなりますw。
 次は「ニートのための行進曲~だらだらと長い思春期」短いテーマが現われては突然打ち切られ、長い休止符が続きます。行進曲と言いながらずるずると止まってしまい、“Children’s Corner”が高らかに演奏される中、親指によるモティーフはヒステリックに打ち消されます。
 最後は「団塊の世代は永遠に不滅です」。大曲です。ステージに乗れるだけ楽団員が乗り、更に20人は押し込みます。昔の給食に使われたアルマイト食器が“腹減った”のテーマをにぎやかに奏でます。天覧試合での長嶋さんのホームランのテープの中、金管と木管が喧嘩するようなパッセージが聞こえますが、なぜかヘルメットをかぶり、口にはタオルをかけています。拡声器で指示を出していた指揮者が引きずり下ろされ、一転整然たる演奏に変わりますが、演歌っぽいインスピレーションのない音楽になります。長嶋さんの引退演説が聞こえる中、「地上の星」がずっこけながら演奏され、やがて消えていくと、女声コーラスがショスタコーヴィッチやプロコフィエフも真っ青の力強さで、全体を支配し、終わり……ません。少年合唱団が泣いてもやめてくれません。


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2 コメント

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SATY が面白い! (yuhoto)
2005-07-14 22:07:22
夢のもつれ-san へ



こんばんは!

エリック・サティと SATY 面白いですね。

それと、SATY の写真を即座に貼付けられるフットワークの良さに脱帽です。
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ありがとうございます (夢のもつれ)
2005-07-15 13:12:37
いえいえ、SatieとSATYはyuhotoさんの着想ですよ。サティもSATYに並べられたと知ったら、どんな顔をするでしょうね。
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