今月7日(水)、名古屋競馬第8競走において、ローレルダンス号に騎乗の山本茜騎手が自身通算100勝を達成しました。
デビューから異例の早さの1年4ヶ月と19日、954戦目での記録。
これは、女性騎手としては最速、また同じ年にデビューした新人ジョッキーの中でも群を抜く早さでの快挙でした。
彼女はデビュー以来、所属する名古屋競馬を中心に勝ち星を積み重ね、2006年4月には新人ジョッキーとしては異例の早さでの交流重賞騎乗をはじめ、同年5月にはJRAのオープンレースに騎乗、10月には交流GⅠ騎乗、そして11月には交流重賞でついに連対を果たすなど、新人ジョッキーとは思えないほどの大活躍を見せてくれました。
また、2005年11月から翌年1月までに渡って行われた全国の女性ジョッキーを集めて行われた「レディースジョッキーシリーズ」では、6戦中3勝の抜群の成績で優勝。
もはや”女性ジョッキー”という枠組では語れないほどの騎手になりつつあります。
そんな彼女も、全てが順風満帆、何も怖いものなしの勢いばかりでここまで辿り着いたというわけではありません。
確かに、騎手出身の良い師に巡りあい、理解してくれる周りの環境にも恵まれ、そして運良く素晴らしい馬との出会い、何より先輩女性ジョッキーがこれまで苦労して残してくれた道があったからこそ、の素晴らしい記録であることには間違いはありません。
しかしそんな中でも途中には、騎乗技術のカベ、騎乗馬が集まらない時期、騎手としての存在意義すらをも問われた時期もありました。
しかし、ことごとく彼女は誰よりも早くそれを乗り越えてきたという事実がそこにはあります。
なにより彼女のたゆまぬ地道な努力、上を目指す意欲、そして数々の壁を乗り越えるだけの強い精神力がなければ、他の男性ジョッキーですら及ばないほどの、このような早い段階での100勝達成はありえなかったことでしょう。
しかしながら、まだ彼女の大いなる挑戦は始まったばかり。
彼女自身が目指すところを考えたならば、これはまだ序章に過ぎないのかも知れません。
___________________________
<山本茜騎手~100勝までの道>
年月日 開催 レース クラス 騎乗馬 斤量 厩舎 人気 単勝
2005年
10/17名古9R B2 ソングフォーユウ 50 原口次 ② 520円
10/18名古4R 3-4 マンリョウハート 50 今津博 ① 140円
10/31名古1R 3-5 トーホウフローラ 50 原口次 ① 150円
(月間3勝)
11/03名古5R B牝 ソングフォーユウ 51 原口次 ① 160円
11/14名古1R 3-4 トーホウフローラ 50 原口次 ① 120円
11/14名古4R C17 キングスゾーン 52 原口次 ① 320円
11/16名古2R C10 トーホウウラノス 52 原口次 ① 240円
11/17名古3R C4 フィールドクラウン 52 原口次 ① 150円
(月間5勝)
12/05名古8R B3 ウイニングウインド 52 原口次 ⑦ 2150円
12/08名古2R C6 テンザンローズ 50 原口次 ② 430円
12/14笠松6R C9 キングスゾーン 53 原口次 ③ 360円
12/20名古10RC14 キングスゾーン 52 原口次 ① 130円
(月間4勝)
2006年
01/06名古6R C2 フィールドクラウン 52 原口次 ① 140円
01/18名古5R C15 キングスゾーン 52 原口次 ① 100円
01/20名古5R C3 ビバキングローズ 51 坂口義 ② 250円
01/29名古5R 3-1 パワートルネード 50 井上正 ② 350円
01/29名古10RB1 ウイニングウインド 52 原口次 ② 290円
01/30名古2R C25 トーワハスラー 50 瀬戸悟 ② 520円
(月間6勝)
02/02名古3R C12 マンダレー 52 今津勝 ② 340円
02/02名古8R B12 フィールドクラウン 52 原口次 ① 130円
02/14名古9R一般 ウイニングウインド 57 原口次 ③ 730円
02/16名古1R 3-8 カネタマル 52 松本克 ⑤ 1170円
02/26名古6R 3-1 パワートルネード 50 井上正 ② 230円
02/27名古4R C22 シャークローズ 51 井手慎 ④ 940円
02/27名古7R B10 フィールドクラウン 52 原口次 ① 110円
02/28名古10R一般 ウイニングウインド 57 原口次 ① 150円
(月間8勝)
03/01名古1R3-10 トーホウアビオン 52 原口次 ① 210円
03/02名古3R C5 マンダレー 52 今津勝 ① 130円
03/08笠松3R C20 ブラックフリート 54 原口次 ① 140円
↑30勝目
03/21名古10RA1 ウイニングウインド 50 原口次 ① 180円
03/27名古4R C23 イッコースワロー 51 岩田幸 ① 170円
03/28名古8R B5 フィールドクラウン 53 原口次 ① 170円
03/30名古2R 3-6 トーホウアビオン 53 原口次 ① 140円
03/31名古5R C5 キングスゾーン 53 原口次 ① 170円
03/31名古8R C2 マンダレー 53 今津勝 ① 110円
(月間10勝)
04/20名古8R B13 キングスゾーン 54 原口次 ① 100円
04/20名古9R B12 マンダレー 54 今津勝 ② 240円
04/27笠松3R B10 マンダレー 54 今津勝 ① 110円
05/02名古1R 3-5 カネタマル 54 松本克 ③ 920円
05/02名古9R B4 キングスゾーン 54 原口次 ② 240円
05/15笠松3R 3-6 カネタマル 54 松本克 ① 210円
05/16笠松10RB4 キングスゾーン 54 原口次 ① 180円
05/22名古11RB1 キングスゾーン 54 原口次 ③ 690円
05/23名古11RB4 ソングフォーユウ 52 原口次 ② 230円
(月間9勝)
06/02笠松3R C9 フィールドナイト 54 原口次 ③ 360円
06/07名古7R A1 ウイニングウインド 50 原口次 ② 380円
06/20名古2R C19 ミスターボギー 54 安達良 ⑧ 3970円
06/21名古10RA1 ウイニングウインド 51 原口次 ② 210円
06/22名古8R C8 デイバイデイ 54 原口次 ① 220円
↑50勝目 (月間5勝)
07/26名古9R B11 ローレルガーランド 55 今津勝 ① 200円
(月間1勝)
08/10名古4R C9 フィールドナイト 55 原口次 ③ 310円
08/18笠松6R C7 フィールドナイト 55 原口次 ① 120円
08/21名古4R C20 アルバミラクル 55 新山廣 ② 790円
08/22名古3R C15 スリーフォービスト 55 竹下直 ② 270円
08/22名古5R B7 ローレルガーランド 55 今津勝 ② 290円
08/23名古3R C13 トーワハスラー 53 瀬戸悟 ① 150円
08/24名古9R B11 タガノグリッター 53 川西毅 ① 140円
08/31笠松8R B6 クリーンパートナー 55 原口次 ④ 680円
(月間8勝)
09/26名古5R C13 スリーフォービスト 55 竹下直 ① 110円
09/27名古4R C11 ウイニングラッセン 55 井手慎 ① 120円
(月間2勝)
10/02笠松5R C18 アルバミラクル 55 新山廣 ① 120円
10/09名古4R C19 アルバミラクル 55 新山廣 ① 100円
10/12名古9R B11 ローレルダンス 53 迫田清 ① 270円
10/13名古1R3-13 オーエスレディー 53 原口次 ⑤ 630円
10/13名古2R3-12 イグザーション 55 新山廣 ② 550円
10/20笠松1R3-13 イグザーション 55 新山廣 ① 130円
10/24名古4R C15 シャトーセンシュウ 53 藤田正 ③ 920円
10/24名古6R C13 アルバミラクル 55 新山廣 ① 120円
10/25名古7R B9 フィールドクラウン 55 原口次 ③ 460円
(月間9勝)
11/15荒尾9R一般 ワンマイドリーム 55 佐伯茂 ② 430円
11/17名古2R C7 ウイニングラッセン 55 井手慎 ① 130円
(月間2勝)
12/04名古6R C25 ファストシャラポワ 53 今津勝 ⑤ 660円
12/05名古6R B4 タガノグリッター 53 川西毅 ① 150円
12/08名古1R 2-6 プリフェクト 53 新山廣 ① 200円
12/08名古6R C4 ウイニングラッセン 55 井手慎 ① 120円
12/14笠松3R C16 カネタマル 55 松本克 ④ 1380円
(月間5勝)
2007年
01/01名古4R C25 ファストシャワポワ 53 今津勝 ② 500円
01/05名古3R 3-5 ノースコム 55 迫田清 ② 340円
01/05名古8R C2 ロージーマイコ 53 新山廣 ③ 900円
↑80勝目
01/05名古10R C1 ベルシャワー 55 荒巻透 ③ 350円
01/10笠松2R C13 カネタマル 55 松本克 ② 450円
01/14名古1R C34 タガノロマン 55 川西毅 ① 120円
01/19名古7R B14 ウイニングラッセン 55 井手慎 ① 160円
01/29名古5R C23 ファストシャラポワ 53 今津勝 ① 140円
01/31名古6R C13 カネタマル 55 松本克 ② 360円
(月間9勝)
02/07名古2R 3-4 ノースコム 55 迫田清 ① 130円
02/07名古4R C14 サクラレオパルド 55 青山幸 ② 1330円
02/08名古4R C9 ファストシャラポワ 53 今津勝 ① 170円
02/09名古2R 3-8 マンリョウフラワー 53 今津勝 ① 190円
02/11笠松7R C34 レオユウキ 55 成田明 ③ 570円
02/15笠松3R C10 スコールマーチ 55 安達良 ③ 690円
02/15笠松4R C9 ウエスタンプリマ 53 松本克 ② 570円
02/18名古5R C30 キミノリサ 53 櫻井今 ② 570円
02/21名古1R 3-5 マンリョウフラワー 53 今津勝 ② 250円
02/27笠松6R B9 バトルエアーカット 53 池辺幸 ④ 710円
(月間10勝)
03/05名古5R C24 オーエスレディー 53 原口次 ① 260円
03/07名古1R 3-6 エイティビガー 55 原口次 ① 110円
03/07名古6R C14 ファストシャラポワ 53 今津勝 ① 100円
03/07名古8R B10 ローレルダンス 53 迫田清 ⑤ 1370円
↑100勝!
(3月7日現在4勝)
___________________________
デビュー当初は、完全に自厩舎(原口厩舎)の馬によって”勝たせてもらっている”という感じでした。
特に20勝辺りまでの勝ち鞍は、ほぼ9割方が自厩舎の馬で挙げたもの。
6勝目にはキングスゾーン、9勝目にはウイニングウインドと、中央から転入してきた期待の馬で勝利を挙げています。
山本茜騎手を語るとき、この2頭の存在無くしては、その活躍は語れないでしょう。
”これから”という比較的若いチャレンジ精神旺盛な原口厩舎に、”これから”という若い山本茜という騎手が、タイミング的にぴったりとマッチしていたと言うことも言えるでしょう。
勝ち鞍をこうやって並べてみれば素晴らしい成績ばかりが目につきますが、ただ50勝辺りまでの山本茜騎手を思い出した時、まだまだ足りないものがあると感じるレースも多く見られました。
例えば、絶対的な一番人気に推された「東海桜花賞」のウイニングウインド号。
早仕掛け気味で、最後差されての2着。
馬の力は絶対的なものを感じていましたが、タイトルの懸かった大きなレースで勝ちを焦ってしまったのでしょうか。
今思えば、彼女にとって悔しいレースのひとつでした。
100勝を挙げ大活躍が報じられるようになった今でも、彼女にはまだ重賞のタイトルがひとつもありません。
最初の転機は、50勝を挙げてからの1ヶ月でしょう。
最速日数で50勝を挙げ、ようやく各方面から注目を集めるようになっていたちょうどその頃、奇しくもそれから1ヶ月以上勝利から見放されてしまう時期がありました。
減量が解除された(女性騎手-1㎏は別)ことも全く影響がなかったとは言えないでしょう。
斤量の有利不利もそうですが、別の話としても他厩舎の調教師から”減量目当て”に騎乗依頼がくることも少なからずあったでしょうから。
しかしそれよりも、自厩舎の有力馬(キングスゾーン、ウイニングウインド等)のクラスが上がり、それらの馬が彼女から地元の一流ジョッキーにその手綱が渡ってしまったことも大きな理由のひとつでしょう。
原口調教師は、たとえハイペースで勝ち続ける彼女であっても、その騎乗技術の未熟さ、レースでの甘さを見抜いていたに違いありません。
大きなレースは当然賞金も高いです。
馬主の手前、調教師の立場としても安易な失敗は許されません。
彼女の跨る馬は、とても走りそうもない馬ばかりになってしまいました。
しかし、それは誰もが通る道。
そこでさらに踏ん張って飛躍できるかが、その騎手の価値なのかも知れません。
彼女の勝利表を見て、気付くことがあります。
50勝を超えてからの彼女の勝ち鞍・・・。
それまでとは一変し、自厩舎の馬での勝ち鞍が極端に少なくなっています。
勝てなくなった1ヶ月。
技術の矯正はもとより、なによりも彼女は更なる勝ち鞍を求めて、他厩舎の馬の調教にも積極的に乗る姿勢。
なにもせず騎乗依頼が舞い込んでくるほど、彼女には実績も信頼もありません。
まだ夜も明けぬ早朝から、他人よりも一分でも早く、一頭でも多くの調教をつけ、また更にそのことにより技術をも磨くことによって、彼女は新たな自分の道を切り開いたに違いありません。
努力の甲斐があったのか、再び勝ち星を手元に引き寄せることができるようになり、自厩舎の有力馬にも跨ることになった秋。
交流GⅠ騎乗、交流GⅡ2着と、さらに騎手”山本茜”の名前は全国区に。
全てはまた上手く回り始めたと思っていたその矢先。。。
船橋でのオープンレースの大失態。
”指示無視。”
それが真実だったのか、あるいは偶発的なものであったのかは私にはわかりません。
それでも結果が、当初の予想と大幅に反した結果であったことだけは事実です。
原口厩舎のホームページによれば、馬主も相当な御立腹であったとか。
彼女は再び自厩舎の馬から、全て降ろされることになってしまいました。
そこで腐るのも自由、怒るのも自由、また諦めるのも自由・・・。
私の思い過ごしなのかも知れませんが、心なしか騎乗にもキレが感じられない日々が続きました。
偶然なのかも知れませんが、12月の勝ち鞍は再び急降下。
世間一般では評価が鰻上りでも、それとは逆に勝ちは遠のくばかり。
焦る。
また焦る。
やたらと2着が続くこともありました。
しかし、彼女はその後行なわれた、レディースジョッキーズシリーズでその培ってきた努力と技術を存分に発揮し、完璧な騎乗を全国の競馬ファンに披露して見事優勝。
それで吹っ切れたのか、年明けの1月の彼女は凄かった。
ホント凄かったです。
1月は他厩舎の馬ばかりで9勝。
2月も同じく全てが他厩舎の馬で10勝を挙げる大活躍。
そこには、もう頼りない女性ジョッキーの姿はどこにもありませんでした。
この1月と2月に挙げた合計19勝は、前年の春に挙げた月間10勝ペースとは中身が全く違います。
自らの努力と自らの力で挙げた、正真正銘の19勝なのです。
今の彼女は、限りなくホンモノに近づいてきています。
一流にはまだ遠いかも知れません。
でもひとつ言えることは、確実に彼女が階段をひとつひとつ上がっているということでしょう。
このたび三たび、原口調教師の許しが出て、山本茜騎手は自厩舎の有力馬にも跨ることができるようになりました。
今回は、調教師自身からの”お墨付き”も出ているほどの信頼も得ています。
今彼女が持っている他厩舎のお手馬のことを考えれば、これに自厩舎の有力馬が加われば、さらに彼女の勝ち鞍は加速度的に増えることでしょう。
今開催の彼女は、一日平均5~6鞍もの騎乗がありました。
これは、リーディングを争うジョッキーの一日の騎乗数とほぼ変わりません。
今後、さらに加速する”山本茜”というジョッキーに、私は期待せずにはいられません。
それでは、また。
___________________________
山本茜騎手 <騎乗成績>
(100勝達成時点~3月7日(水)現在)
<通算>
騎乗数 1着 2着 3着 4着 5着 着外
954戦 100勝-105- 98-101-120-430
<勝 率> 10.5%
<連対率> 21.5%
<複勝率> 31.8%
<2007年>
騎乗数 1着 2着 3着 4着 5着 着外
146戦 23勝- 12- 25- 14- 22- 50
<勝 率> 15.8%
<連対率> 24.0%
<複勝率> 41.1%
___________________________