どんこの空(そら)に 。

きっと何かが足りない~それを探す日記~

失望はない、あるのは希望だけだ。

2007-06-09 | 名古屋競馬の話

金曜日、名古屋競馬場にて行われた「第37回東海ダービー」。
昼過ぎまであんなに晴れていた空も15時過ぎには一転怪しい雲が立ち込め始め、出走直前には遠くで雷鳴も轟くほどの薄暗い空に。
・・・嵐の予感。

”もってくれ・・・。”

この素晴らしき優駿達の晴れ舞台のために。


そんな願いも叶わず、ファンファーレが鳴る頃には既に空は泣き出していた。
これも神様の演出か?
そう、これも競馬である。
どの馬にもさまざまなドラマがあり、その馬のそばにいる人達にはさまざまに背負うものがあり、そして私はそれを見る。



ワイティタッチには尾崎騎手が跨った。
彼こそ、この馬の晴れ舞台にふさわしい。
ワイティタッチは、2歳の重賞レースにて、もはや若手とは言えないほどに歳を重ねた尾崎騎手に初めて重賞タイトルをもたらした馬。
デビューからずっと、一緒に苦楽を共にしてきた馬。
ベテランに乗り替わっても腐らずに愛し続けた馬。
前走、彼はチャンスをモノにした。
しかし今回も、この晴れ舞台の鞍上の発表は彼ではなかった。
それはそれで、仕方ないことなのかも知れない。
それがこの競馬社会。
彼から乗り替わったベテランジョッキーもダービーのタイトルはない。
さらに昔から続く人と人との繋がり。
連鎖する想い、願い。
誰が悪いわけでもない。
ただ、それでも神様は粋な計らいをする。
当日に発表された騎手変更。
第37回東海ダービー、1番人気ワイティタッチ号、鞍上尾崎章生。



シンメイジョアーには、歳ひとつ違う全姉がいる。
サチノスイーティー、中央競馬美浦所属、19戦5勝。
芝の短距離重賞タイトルを持つ韋駄天快速娘。
先日の交流重賞「かきつばた記念」で2着に入った馬である。
そんな全姉を持つ彼女が、名古屋の泥んこダートを走っている。
それ自体、不思議な気がする。
彼女の才能は、ダイヤモンドかそれとも石ころか?
今回も、たとえ最果てのような競馬場であるにせよ、メインレースで1900mのダートを走る。
そう、果てしなく続く未来のために。
彼女は彼女の、道がある。



マルヨフェニックス。
2歳時は飛ぶ鳥を落とす勢いであった。
3歳の春、初めての遠征競馬。
関西の強豪との戦いも圧倒的な強さで制し、まるで我が世の春を感じさせた。
世代代表は我にあり。
この馬の関係者もはたまた尾島騎手自身も、誰もがこの馬の頂点君臨を信じて疑わなかったに違いない。
3月。
思わぬつまずき。
減っていた馬体が戻らない。
・・・・・溢れていた気迫が感じられない。
3月8日、スプリングカップ。
断然一番人気に推されるも、同じ笠松のライバルと目されていた勝ち馬のキャプテンハートから離されること1.8秒。
5着敗退。
そんなはずはない。
こんな馬ではない。
同じく前走、春のクラシック第一弾、ダービーの前哨戦でもある「駿蹄賞」。
勝ち馬ワイティタッチから遥か後方、彼がゴール板を過ぎたのは1.4秒後のことであった。
負けたことはともかく、大バテのシンメイジョアーすら交わせない脚に、この馬の距離適性すら疑われたほどである。
そんなはずはない。
こんな馬ではない。
尾島騎手もきっと、そう思っていたはずだ。。。




雨は微妙にレースを左右する。
馬場の硬さも時間につれて刻々と変化する。
やはり前が有利なのか?
それとも・・・・・。

ゲートが開くと、レースは1番枠を引き当てた柿原騎手のジーンジニーが引っ張った。
行くと思われていたシンメイジョアーは、引っ掛かる事を恐れてかやんわりと出る。
それでも前が取れることは、先行の名手丸野騎手には初めからわかっていたのだろう。
マルヨフェニックスは枠順を利してシンメイジョアーよりも前に出た。
威風堂々、自分のペースで走る。
変に小細工はしない。
なぜなら、一番強いのは俺の馬だから。
尾島騎手の気持ちが伝わってくる。
これはある程度、予想できた展開。
最初の1コーナーを回る頃には、後ろの馬はみんな泥まみれだった。
ワイティタッチは中段内目。
ライバルが多ければこそ、そこは絶好の場所だ。
あとは後半、捌ききれるか?
そこは尾崎騎手の腕にかかる。
自信はあるに違いない。
不思議にそう思えた。
誰より彼をよく知っている、何より彼は最愛のパートナーであるのだから。

向こう正面、3コーナー手前。
案の上、ペースが上がる。
待ってました!
この3人と3頭には、望むところの展開だ。
勝負だっ!!!!!
そんな声がどこからか聞こえたような気がした。

まずマルヨフェニックスが堂々と早め抜け出す。
追いかけるようにシンメイジョアー。
前走の二の舞は演じないとばかりに鋭い脚を繰り出す。
少し遅れてワイティタッチ。
前半で貯めた脚をいまこそ爆発させる時。
コーナー中間。
この3頭以下は何も来ない。
何も来ない。
やはり勝負はこの3頭。
同じクラシック戦線を共に戦ってきた、凌ぎを削ったこの3頭だ。
頑張れ、どの馬も頑張れ。

コーナーで少し置かれるワイティ。
ジョアーは一旦先頭フェニックスに並びかけるものの抜き切れず、4コーナーのコーナーワークで再び少し後退する。
フェニックス!
我慢だ!フェニックス!
尾島騎手の叫びが聞こえるようだ。
ワイティーがジョアーを交わす。
それでもジョアーは垂れない。
さらに前に迫るワイティ、粘るフェニックス!
粘るフェニックス。。。



そして・・・・・・・
勝負は、ついた。
それはこの世界の掟であるから。
誰かが勝って、その何倍もの敗者がそこには現れる。
勝ったのはマルヨフェニックス、尾島徹。
大いなる未来が再び開けた。
彼は天に大きく喜びを突き上げた。
さらなる高みへ。
広い世界へ。
惜しくも敗れたワイティタッチ。
何も悔いることはない。
ほんの少し運がなかっただけさ。
シンメイジョアー。
彼女の輝く舞台は他にある。
類稀なるそのスピードで。。。


歓声と罵声の入り混じったあと、しばらくの間ざわめくスタンド。
この薄暗いドンコの空の下であっても、私はなぜか爽やかなレースの余韻に浸る。
良いレースだった。
馬と人との想いがいっぱい詰まった、そんな良いレースだった。


この3頭に、勝者と敗者の境界線が引かれたとしても、私は思う。
この3頭に失望はない、あるのは希望だけだ。
・・・・・と。
それはまぎれもなく。
それは間違いもなく。
おめでとう。
そして、ありがとう。


それは馬券の話!?
そうじゃない。。。
きっと?そうじゃない。。。。。と思う。(笑)





まあ、そういうことにしといて下さいな・・・。





それでは、また。
















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