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今日の「 お気に入り 」 。
「 月のぼりぬ夏草々の香を放つ
吾妹子の肌なまめかしなつの蝶
釣瓶漏りの音断続す夜ぞ長き
独り飲みをれば夜風騒がしう家をめぐれり
風は気まゝに海へ吹く夜半の一人かな
風に吹かれて屋根の鴉は鳴きやまぬかな
大蜘蛛しづかに網張れり朝焼の中
闇をひたゝゝ押し寄する波のかぎりなし
乞食ゆき巡査ゆき柳ちるなり
あてもなく踏み歩く草はみな枯れたり
鴉けふも啼きさわぎ雲のみだれけり
光と影ともつれて蝶々死んでをり
さゝやかな店をひらきぬ桐青し
重荷おもくて唄うたふ
ふるさとはからたちの実となつてゐる
あめふるふるさとははだしであるく
住みなれて茶の花のひらいては散る
へうへうとして水を味ふ
腹いつぱい水を飲んで来てから寝る
岩かげまさしく水が湧いてゐる
物おもふ一人なり木影うごかず
雪をよろこぶ児らにふる雪うつくしき
水底いちにち光るものありて暮れけり
一葉落つればまた一葉落つ地のしづか
月澄むほどにわれとわが影踏みしめる
( 山頭火 )」
( 出典: 種田山頭火著 村上護 編 小崎侃・画 「 山頭火句集 」ちくま文庫 ㈱筑摩書房 刊 )
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