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今日の「 お気に入り 」 。
「 老人であることの最大の利点は何といっても『 最近の若い者は 』
という言い方ができることである 。若者は『 最近の老人は 』と
言い返すことができない 。というのも彼らは昔の老人のことを知
らないからである 。これほど痛快なことがあろうか 。こういう時
にこそ人は長く生きてきてよかったと感じるのである 。
考えてみると 、わたしはこれまで注意とか小言ばかり言われ続け
てきたような気がする 。学校へ行け 、宿題をやれ 、真面目に働け 、
万引きをやめろ 、こわれた棚を直せ 、帰りが遅い 、法にふれる
ようなことをするな 、法にふれても警察に捕まらないようにしろ 、
裸で外を歩くな 、小言を言うな 、など 、小言ばかり言われてき
た 。それから解放されるというだけでも老人になる利点は十分に
ある ( そのうえ 、バス代や医療費もいらなくなるなんて夢みたい
な話である ) 。
高校生のころは髪を染めると叱られていたものが 、年をとると髪
を染めようが 、頭を剃ろうが 、何も注意されなくなる 。注意さ
れるとしてもせいぜい 、体に悪いものを食べるな 、食事と食事の
間隔が一時間では短すぎる 、大小便はトイレでしろ程度である 。
場合によってはこの程度の注意でさえされなくなるのである 。
逆に 、年長者として 、若い者にうるさく注意すべき立場に立つ
ことになるのだ 。どんな若い者にも必ず注意すべき点がある 。
若いというだけですでに注意に値する 。この時こそ『 最近の若
い者は 』という表現を存分に使う時である 。この表現は一般に
次のように使われる 。
『 最近の若い者は全然勉強しない 』
『 最近の若い者は勉強ばかりしている 』
『 最近の若い者は主張がない 』
『 最近の若い者は自己主張が強い 』
『 最近の若い者は身体がひよわだ 』
『 最近の若い者は身体だけ頑丈だ 』
『 最近の若い者は素直さがない 』
『 最近の若い者は主体性がない 、社会に反抗する気概がない 』
このように状況に応じて臨機応変に使い分けることができる 。
( 中 略 )
老化の利点はまだあるだろうが 、とりあえずこの程度で十分で
あろう 。これだけ老化の利点を見せられて 、それでもなお 、
老化はいやだと言い張る人がいるだろうか 。もしそんな人がい
たら 、その人は正常である 。どうしても老化が苦になる人は 、
自分が正常であることに慰めを見出すしかない 。 」
( 出典 : 土屋賢二著 「 われ笑う 、ゆえにわれあり 」文春文庫 所収 )
( ついでながらの
筆者註: 「 土屋 賢二( つちや けんじ 、1944年11月26日 - )は 、
日本の哲学者( ギリシア哲学 、分析哲学 )。
エッセイスト 。お茶の水女子大学名誉教授 。
経 歴
岡山県玉野市出身 。岡山県立岡山操山高等学校から 、
官僚を志し東京大学教養学部文科一類入学 。
1967年東京大学文学部哲学科卒業 。
学科同期に菅野盾樹( 大阪大学名誉教授 )、
袴田茂樹( 青山学院大学名誉教授 )など 。
その後 宅地建物取引士の資格を取り 、不動産会社で
3ヶ月働く 。東京大学院人文科学研究科博士課程中退 。
東京大学助手を経て 、1975年からお茶の水女子大学教育学部講師 。
1979年に同助教授に 、1989年に同教授に昇格 。2002年から2年間 、
お茶の水女子大学文教育学部学部長を務めた 。
2010年定年退職 、名誉教授 。定年退職後は 神戸市に移住した 。
2020年 、「 無理難題が多すぎる 」で本屋大賞発掘部門「 超発掘本! 」を受賞した 。 」
以上ウィキ情報 。
この人には無駄に文章力はある 、という記事を週刊誌かなんかで読んだ 、
という人の話を聞いたことがあるような気がする 。 )
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