村井弦斎『食道楽(下)』岩波文庫、2005年
明治期の漬物文献を探していた時、村井弦斎『食道楽』は漬物を漬けることは女性の基礎知識であるものとみなされていた。日本の人に馴染みのない洋食系の記述が多い。『食道楽』には本の後半にある、新規の料理リストに漬物の記述はなかった。
岩波本の解説を書いた黒岩比佐子によると、報知新聞が経営危機になった時、家庭婦人欄を拡充し、主婦の読者を増やした。『食道楽』が新聞に連載が始まると読者の反響が大きく、半年の予定が1年となった。
戦前は男尊女卑の時代で、漬物の知識は女性のたしなみとされ口伝と実地で覚えるものだった。漬物の乳酸発酵の仕組みが理解されていない時代だった気がする。
今は漬物の知識は代々伝わることなく、大手食品製造業の宣伝で、小腸まで生きている乳酸菌は発酵した漬物を食べることで十分なのに宣伝で加工した発酵食品を選んでいるようだ。漬物業界も乳酸発酵の漬物の商品管理が難しく、開発をためらっていたようだ。その理由は流通管理が難しく、味が一定にならないことから来ている。
今では腸に届く乳酸菌が日本人の健康を維持していると思われている。自家製のぬか漬は一番良いと思われるが今はつける人も少なくなった。ぬか漬男子まで生まれ、絶滅危惧の食品となったようだ。量販店のぬか漬は私から言わせれば調味料で下漬けされ、ぬかをまぶしただけの漬物で正確には『ぬかまぶし』と言いたい。これでは乳酸菌を本当にぬか漬けで腸まで届くのだろうか。