エッセイ・霧島つつじ
母の実家は、村の真ん中の砂利道を曲って、山の方に少し上
がっていくと、集落が六軒ほどの、一番奥にあった。
昔は大きな農家で、大家族が暮らしていたと言うが、私の生ま
れる前に、田畑も家も人手に渡り、屋敷だけが残ったという。
私の記憶の中には、だだっ広い屋敷跡に、昔の家の土台だった
石があちこちにあった。葱や菜っ葉の野菜畑や大きな樹木、何
かの花も咲いていた。背戸は沢山のつつじが真っ赤に咲く、白
っぽいゴツゴツした岩肌の小高い山で、その屋敷のはずれの小
さな家に、祖母と、まだ結婚をしていない母の兄が住んでいた。
私は町中にある家で、両親と住んでいた。
母の兄は町に出かけてくると、私の家によく泊まっていった。
帰る時、幼い私を誘い、母の実家に連れていっては、しばらく
祖母と3人で暮らしたりした。
祖母は、子供を9人も生んだ。母が末の子供だったので、私
から見たら、随分年をとっていた。優しいおばあちゃんと言う
のではなかったが、寝る時はいつも一緒だった。日向の匂いの
する布団の中で、おとぎ話や、わらべ歌を、聞かせてもらった
ような憶えがある。
母の兄は、家に帰ると、私には関心をみせず、祖母ともあま
り話しをしなかった。私は祖母の後を、一日中付いてまわった。
時々、祖母の傍にいるのにも飽きると、裏山のつつじの木の下
に行って、おままごとをした。幼い私は、つつじの種類などは
分からなかったが、大きな樹の、鮮やかなつつじが大好きだっ
た。多分、つつじの花と、春の青空を、うっとりと眺めてでも
いたのだろう。
7~8年前、春の風に吹かれて自転車をこいでいると、植木
屋さんの畑に、赤いつつじを見つけた。懐かしくなって、植木
屋さんに尋ねた。
「霧島つつじです」
幼い日の、あの時に、めぐり合ったと思った。
今、私の庭の霧島つつじも蕾をつけた。もうすぐ、真っ赤な
花が咲く。
※ 先生の講評
表題の通りなら、初出はカラフルにする等印象を強
めたい。
のどかな人と風景がほうふつとする。