ボンヤリ 課題:【しゃにむに・ぼんやり】
老後は、ゆったりのんびりと過ごしたい、毎日が追われるような日を
送っていた頃、よく考えていた事だ。
老後って何時から始まるのだろうか。子育てが終わる、夫が仕事を
辞める、自分のことだけに、時間を使えることなのだろうか。そう考え
ると、今、私は、半分ぐらいの老後かもしれない。
一時ほどではないが、夫は、まだ仕事を続けているので、それに合
わせた一日が始まる。息子二人は、それなりにやっている。
だから、結構自分のペースで動けるようになった。好きなサークルの
集まりにも、家族の都合で、欠席することもなく出かけている。
時間的にはのんびりかも知れないが、ゆったりとした、実りある時間か
というとそうでもない。
あれもこれもと、したい事がいろいろあるのに、頭の回転が追いつい
ていかない。その為、不安な気持ちが絶えずおき、無駄な動きをす
る。
家から自転車で4~5分のところに、大きな団地があり、そのロータリ
ーからバスが出る。始発だから大抵座れる。座席に座ってほっとする
と、途端に、「大丈夫かな」が出てくる。
何が大丈夫かなは、火の元が心配になるのだ。その為にバスを降り
て、確かめに戻った事が何度かある。
「やかんの取っ手が取れそうだから、新しいのを買ってきちゃった」
と、夫に嘘を言ったのは、空焚きをして色が変わってしまったからだ
し、いい匂いがすると思っていたら、温めなおしの味噌汁が、鍋底で
ちりちりしていたなどの失敗が、最近続いている。
バスが走り出すと少しずつ不安な気持ちが薄らいでいく。でも、時々
小さく思い出すのが気持ち悪い。
ゆったり、のんびりはいいが、おまけのボンヤリもついてきたようだ。
課題:【しゃにむに・ぼんやり】
先生の講評 しのびよる老いの足音、さりげない目で観察。
穏やかな筆致がテーマにそぐう。