エッセイ やわらかな風 課題 【空・風】 2018.6.22
青梅線御岳駅を降りると、正面に御岳橋がある。
橋のたもとの小さな案内板に沿って坂道を下ると多摩川に出る。
途中、橋の裏を見上げると、思った以上の大きさに結構ドキッとし、少しわくわくする。
川辺に寄ると、水は岩にぶつかりながら豊かに流れている。
最近よく見かけるのが、カヌーやゴムボートに五、六人が乗った、ラフティングと呼ばれる川下りだ。
派手なライフジャケットを着て歓声を上げながら急流を下って行く。
大きな岩と岩の間の流れに、行方が定まらずぐるぐるとボートがまわる。
河原に高校生くらいの、短パンで裸足の男の子が三人、焚火をしていた。
体の大きい子が、裸足が痛いのか爪先立って、へっぴり腰で歩いている。
下流に歩いていくと、酒蔵の経営する食事処がある。
テーブルに日本酒を置いて、枝豆や名物のコンニャクのお刺身等を肴に、みんないい笑顔だ。
お酒は頼まなかったが、お蕎麦とおでん、食後に酒まんじゅうを食べ、幸せなお昼ご飯だった。
帰り道、遊歩道脇の無人スタンドを覗いた。
山菜の煮物や漬物、切った沢庵がパック詰めになって売っている。
ベンチに座った。
モミジの若葉が、丁度いい木陰になっている。
目の前の川を眺め、岩にぶつかる水の音や鳥の声を聞く。
柔らかな風に、会話はとりとめもない。
夫が話した。
取引先のお客様が施設に入ったのでご挨拶に伺い、食事をご馳走になってきた。
「とに角豪華なところ、メニューもすごいよ」と言う。
聞いていて、幸せな老後を送られるのだと感じた。
でも、私は、スタンドに並んでいた、つやつやのミョウガの一つも刻み、お味噌に合えてご飯を食べる、そんな風に過ごせればいいなと思った。
高校生はまだ居た。
さっきと違うのは、中州の大きな岩に、水着姿の外国人が大勢上っていた。
先生の講評・・・・・風景描写に織り込む心理の綾。この二つがうまく融けあう。