エッセイ 居酒屋 課題【笑う・泣く】2019年五5月24日
子供の頃、夕方になると縁側の雨戸を閉めるのは私の役目だった。
たまに閉め忘れて燥いだ声を立てていると、帰ってきた親に叱られた。
雨戸は朝早く開け、暗くなる前には閉める。
外と内、昼と夜を分ける暮らし、お日様に合わせた一日を過ごしていたように思う。
子育てをしていた頃よく感じた事だが、夕方になると、子供は変に燥いだり愚図ったりする。
流しやガス台の前を行き来していると、「もうやめて」と足にすがりつく。
「一寸だけ待って」と続けていると泣き出す。
昼と夜の境目は、人間を不安にするのだろうか。
この頃、子育てを終わった人達と、何かと集まる。
最近仲間の一人が転勤になるので、居酒屋に集まった。
靴をぬいて座れるお座敷タイプ、後ろの席は十五人ぐらいの若い人のグループだった。
女性の高い声が響き、男性は手を叩き、大声で盛り上がっている。
私達の隣のテーブルが空いていた。
そこにまだ三十代かと思われる夫婦と子供二人が入ってきた。
小学生低学年位の女の子、幼稚園生位の男の子、驚いたことにコートを脱いだお母さんは胸に赤ちゃんを抱いている。
お父さんはバギーを畳んで隅に置く。
私には思いもやらぬ光景にどぎまぎし、目を合わせないようにして背を向けた。
何度も来ているのか、普通に注文をし、出てきた料理をお父さんが取り分け、子供たちは静かに食べる。
お母さんは赤ちゃんの口にスプーンを運びながら、お父さんと乾杯をしている。
そこだけを切り取ったら、どこにでもある普通の家庭の夕食風景だ。
時々男の子が床に寝転んだりするが、別に騒いだりはしない。
今、若い夫婦は、大人が集う居酒屋に子供を連れてくることに抵抗はないのだろうか。
昼と夜、内と外、そして子供と大人、境目のない暮らしに驚いている。
先生の講評……居酒屋、そうらしい。
カラオケもそうだがキッズルーム風の対応があると聞いた。
変化になかなか追いつかない心理はよくわかる。