エッセイ メロン 【夏・自由課題】 2014/7/11
夫と二人、朝はパン食にしている。
夫々が好きなパンと紅茶、ヨーグルト、ハムかウインナー、枝豆、そして果物と言うメニューを飽きもせずに食べている。
果物は季節によって少し変わるが、秋から冬はリンゴ、春になると柑橘類やイチゴ、たまにはさくらんぼの日もある。
梅雨時は意外と果物の種類が少なく、小玉スイカやメロンを食べる。
メロンと言っても網目模様の高級なものではなく、最近の品種改良された手頃な値段の物を使う。
今朝もメロンを切り分けたが、ふと昔のことを思い出した。
当時渋谷の商事会社に勤めていた。
会社は小さかったが、社長は若く活気があり、社員も楽しい人が多かった。
若手の青年ユウちゃんは、顔はイマイチだが人気者だった。
レストランのウエイトレスをしているケイちゃんという恋人がいて、細いズボンに先の尖がった靴を履き、雨も降っていないのに長い柄の傘を持っていた。
長いスカートのケイちゃんと、流行の「みゆき族」を気取っていた。
集金をしてきて、計算をするのに大きな声で独り言を言う。
「合わないよ」、「飯代は自分の財布から出した」、「俺が机に出したのを、誰か取っただろう」、皆ニヤニヤしながら聞いている。
「ああ、何とか合ったよ」と経理に伝票とお金を出すと「適当に合わすんじゃないよ」と課長の篠さんから声がかかる。
背の高い篠さんは口数の少ない文学青年風だが、時々言う冗談は面白いから皆に好かれる。
当時は高度成長期で会社の決算は毎回黒字、よく週末に会食があった。
ある時、宇田川町の会席料理に行った。
社長がデザートにメロンが出てくると言ったので期待していた。
最後に、気取った皿の真ん中に、薄く切って倒れそうなメロンが出てきた。
皆は黙って食べた。
突然「メロンて固い物だな」と篠さんが言った。
すかさずユウちゃんが「皮食ってるの」と聞いた。
「こんなに薄いのでは食うところがないよ」と篠さんが言ったので、一気に緊張がほぐれ、皆が笑った。
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