エッセイ:いいことば
日経新聞一面のコラムに、高尾山薬王院山門の看板のことが載っていた。
そこには次の文字が書かれているという。
高いつもりで低いのは、教養
低いつもりで高いのは、気位
深いつもりで浅いのは、知識
浅いつもりで深いのは、欲、
等々十カ条が掲げてあるそうである。まだその十カ条は見た事はないが、その
ことばが気になって、時々思い出す。思い出して考える。自分には全部当ては
まる。
多分、このことばを考えた人も、私と同じだったのだろう。
先日友人のところに「オレオレ詐欺」の電話がかかってきた。
友人が出ると「オレオレ」と言って泣き出す例のオレオレ詐欺である。
人の優しさにつけ込み、無防備な人を騙す卑劣な行為だが、こちらにも、ある種
の「欲」が潜んでいる事も一因なのかもしれない。
公にはしたくないし、大事にしたくない、早く始末をしたいなど、その本質の対応
を忘れている事も、被害が大きくなるのではないだろうか。
友人は、「声が違うみたいだけど」と不審に思い、何度も聞き返した。
泣き声がおかしい、そして、普段、息子は「俺、オレ」とは言わない。
やっと我に返って電話を切り、難を逃れたとか。
何時の頃から、子供は親にむかって「オレ」なんていうことばを使うようになったの
だろう。
青森からりんごが届いた。箱の中に敷かれた古新聞に、いいことばが載ってい
た。読み飛ばして深くは覚えていないのだが。
遠くに行ってしまった飲み友達との、久し振りの会話だ。
「まだ飲っているかい~」
「だめだ~、血圧が、今はコーヒーだ」
「甕を割ったのかい!」
なんと風流で、粋な会話をしているのだろう。