先生の講評……女心の物化。物の細部が暮らしの心を伝える。
芥川の出だしが、ロマンの香りを与えた。
つつじのつぶやき……鎌倉彫の何だか華奢な裁縫箱です。
裁縫箱 課題【破壊・修復・未完・完成】 2020.11.13
芥川龍之介のドキュメンタリー番組を見た。
奥さんの愛用していた裁縫箱から、芥川が送った恋文が出てきたという
くだりが、忘れられない。
芥川には心に秘めた初恋の人がいたし、不倫もされた。
それでも恋文を身近な裁縫箱に忍ばせていた。
昔は手縫いが多く、何時も手元近くにあったはず。
奥さんは、夫の自死の後の長い年月、思い出の最後にはあの
恋文を思い、そっと裁縫箱に手をやったかもしれない。
私も木製の赤い裁縫箱を持っている。
三十センチの高さ、横二十センチ、引き出しが三段付いている。
いつ買ったかは忘れたが、相当古い。
十年位前に片方の蓋の蝶番(ちょうつがい)が壊れ取れてしまった。
今はその都度蓋を被せ、持ち運ぶ時はそっと持つ。
先日ゴム通しを探そうと、日の差す所に持っていくと、
随分くたびれて見えた。
飾りの木彫りにも白い埃が溜まったように見える。
この先何年使うか分からないが、買い替え時だと思った。
コロナ禍で、お店を覘いて買っていたものが、ネットに変わった。
「裁縫箱」と検索すると沢山の情報や値段を見比べられる。
何だかクラシックな、鎌倉彫を見つけた。
今度の裁縫箱は、蓋を開けた所に、裁ちバサミや針刺し、
糸通し等を入れる。
一段目の引き出しは、ミシン糸や仕付け糸。
真ん中の段は、針とボタンの小さな箱。
三段目の抽斗は少し深いので、ゴム等を入れているが雑多な物も多い。
使わなくなった留め具や携帯用の七つ道具、リボンやテープ等。
洋裁を習っていた時に使った、製図用の定規もある。
三角定規の様な物で、斜めの片が曲線になっていて、
ノートに製図を書く時に使った。
これは洋裁をしていた証、もう使わないが捨てられない。
ボタンには思い出もあるが、何年も出番がない。
一つの袋に纏めて、別の籠に仕舞おう。
裁縫箱が生まれ変わった。