草むしりしながら

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草むしりの幼年時代 その5

2018-11-22 13:26:57 | 草むしりの幼年時代
草むしりの幼年時代 その5

嬉しい日の弁当
 
 朝のテレビでクイズをやっている。チーズ、巻き寿司、ロールケーキ。この中でクッキングペーパーを使うと、きれいに切れる物はどれでしょうかと。巻き寿司だと思ったのに。残念、正解はチーズだった。障子紙だったら間違いなく正解は巻き寿司なのだが
 
 菜切り包丁の刃先の二ミリほど上から、水濡らした障子紙を貼りつけて巻き寿司切る。こうするとすし飯が包丁にくっつかず、どんどんと切れる。自分で考案したのだろうか、それとも婦人会で習ったのだろうか。母は何かある度に大量に巻き寿司作っては、いつもそうやって切っていた。
 
 朝寝坊の私だったが、運動会や遠足の日には早起きしていた。けれども母はもっと早起きで、私が起きたころには巻き寿司を切っていた。包丁にはいつものように障子紙を張り付けている。張り付けるのは厚手の障子紙で、同じ和紙でも習字紙では上手く切れない。

 巻き寿司を切る時の母のこだわりは濡れた障子紙で、私の楽しみは切った巻き寿司の端っこ食べること。前の日からおやつをリュックに詰めて、楽しみで眠れなかった遠足の日の朝。後にも先にも一度きり、リレーの選手に選ばれた運動会の日の朝。いつも巻き寿司の端っこを食べて学校に行った。

 卵焼きの黄色、椎茸の黒、三つ葉の緑色、桜でんぶの桃色と白い寿司飯と黒い海苔。切り口を上に向けるときれいだけれど、弁当の中に入る巻き寿司の数が少なくなる。だからといって巻き寿司を立てて並べると、海苔の黒いとこだけが見えてちっとも楽しくない。だから切り口を上に向けて2段に重ねる。これだと弁当の中に巻き寿司がいっぱい入って、見た目もきれいだ。母の苦心が伺える。

 小学校の春の遠足は、全校生徒で学校から四キロほど離れた海に歩いて行く。クラスごとに並んで歩き、海岸に着くと解散になる。「解散」の声で急に辺りに人がいなくなり、私一人取り残された。どうすればいいのかわからずその場に立っていたら、姉が迎えに来てくれた。

 姉は近所の仲良しさん達の所に連れていてくれた。いつも遊んでいる一つ違いの友達や、遊んだことの無い高学年のお姉さんもいた。砂浜の上に新聞紙を敷き、海を見ながらみんなでお弁当を広げる。どの子のお弁当もみんな巻き寿司だった。

 「こうやって二段に入れると、たくさん入ってきれいでしょ」姉が友達にお弁当を見せて自慢している。巻きずしを二段に重ねて入れるのは、姉の発案のようだ。お弁当は半分だけ食べて、残りは取っておく。
 
 帰りは地区ごとに歩き、途中で学校に寄ってひと休みして、二キロの道を歩いて帰る。靴脱ぎ場の簀の子上に腰を下ろし、残しておいたお弁当をみんなで食べた。人影のまばらな学校は、ちょっと怖かったけど、姉がいるから平気だった。姉とはいつも喧嘩ばかりしていたが、こんな時には仲が良かった。その上残しておいた巻き寿司は特別おいしかった。

 遠い昔の嬉しい時の思い出はいつも、弁当箱の中の巻き寿司と一緒にある。


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