・子守唄聴かせし日すでに遠くして子は冬の帆立てて操りゆけり
「夕霧峠」所収。
子の親離れの歌である。「愚母賢母」の歌とちがい、「娘」を(こ)と読まさずに「子」と表現している。子守唄を聞かせた幼児期を回想しているからだ。
焦点は下の句の「冬の帆立てて操りゆけり」の表現。「夏の帆」ではなく、冷涼感がある。子が親離れをする寂しさを象徴しているようだ。
これは比喩だが、どこの海かは「捨象」されている。「表現の限定」がここでも効いている。
「NHK歌壇」では、司会者も作者も「下の句に焦点がある」という趣旨のコメントをしていた。