「特に練習とか、準備はしなくていいよ。ふつうにしていてくれたらいいから」
良い時代だったのだと思います。
毎回楽しく仕事させていただいていました。
せっかく選んでいただいたのだから、喜んでもらえるよう、しっかり良い仕事をしたい、
何を勉強したら上手になるのか教えてほしい、と頼んでみましたが、
「健康管理をしっかりして、毎回時間通りに局入りして、元気にはきはき話せばいいよ」
的なお返事。
元気にはきはき、というのが苦手な女子大生でしたが、それが仕事だというのですから、やるしかありません。
まあ、出来ていたかどうかわかりませんが。
そのうちに就職試験があり、放送局に入社が決まった時はただ驚きました。
試験に当たって、どんな勉強をしたらいいのかと尋ねると、
「スポーツ新聞を読んだらいいよ。あとは何もしなくていいよ」
とのことで、半信半疑でしたが、それでコネもなく本当に合格できたのですから、何とも言えない感覚、あまり自己肯定感を感じられないまま社会人になったように思います。
入社後は毎日一日中研修で、ボイトレ~アクセント~活舌などで日が暮れました。
もちろん私が圧倒的劣等生だったことは言うまでもありません。
研修が終わって、初めての仕事は、「人生相談」の番組のタイトルでした。
「人生相談」と声高らかに叫ぶのですよね。
これを朝から晩まで、一週間、何百回と録音したんです。
ディレクターは怒っていました。
「その言い方じゃ、困ったことがあっても相談してみようっていう気持ちにならないよ。もっと心をこめて!」
心をこめて、と言われて心を込めましたが、全然こもっているように聞こえなかったようです。
私自身も最後の方は全く分からなくなってしまってました。
一週間(!)何回も録音したものの、使えるものは一つもなく、結局先輩が代わりに読みにきてくれたところ、一発で採用になりました。
「会社が自分に払ってくれるお給料は一体何の役に立ってるんだろ?」と、情けなさでいっぱいだったことが忘れられません。
「この仕事は、指示が漠然としすぎていて、感覚的で、いったい何が求めれらているのかな?」
アナウンスが上手になりたいけど、どうしたらいいんだろ?
上手な先輩に教えてもらおうとしますが、「人のを聴いて盗まなきゃ」なんて言われると、とたんに気持ちが萎えてしまって。
結局私は在籍中、ほとんど読みの知識が増えることなく、
実力のない、頼りない、全く恥ずかしい仕事ぶりでした。
~to be continued
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