あの頃から少しだけ大きくなったびわの実
冬の記憶を思い起こすような冷たい日差しに照らされ
変わりゆく季節の中で 太陽の暖かさを取り込み
太陽の色に染まりながら
参照:
2005年2月6日
2005年1月16日
冬の記憶を思い起こすような冷たい日差しに照らされ
変わりゆく季節の中で 太陽の暖かさを取り込み
太陽の色に染まりながら
参照:
2005年2月6日
2005年1月16日
夜を照らす月がこんなに明るいと知った夜。ぼくはあの子に出会った。
見上げるほどに月は丸く、見下ろすほどに闇が色をなくす。
息も凍るような冷たいひかり、音のない世界はだれもが音を立てることをきらう。
歩きゆくぼくの靴音だけが街に響き、月の中へと吸い込まれる。
こごえるゆびさきに、はぁっと息を当てつめたい月をながめている。
街灯さえも無い道を、明かりさえも持たずに歩く。
香る山のかおりも、近くを流れる小川の音も、すぎゆく時間とともにぼくの体に吸い込まれる。
吐き出した息は白く、街は押し黙り、鳥たちは眠りにつき、吹き付ける風は山を揺らす。
ふいに声が聞こえてふりかえる。
”こんばんわ。あなたもおさんぽ?”
月明かりにてらされて、君は暖かくほほえむ。
”うん・・・・・・ いい月だね”
見上げた月は、それはそれは大きく、はね上がる鼓動のようにぼくの中を駆けめぐる。
夜の中に沈みこんだ街は音も光りもなく、耳の奥で聞こえる鼓動。
”いい月ね。ここはこんな月がみられるんだね。ねぇ一緒に歩かない? 少しこの街のお話聞かせてよ”
長い黒髪にすきとおる声が響き、肩から伸びた細い腕がすっとぼくの手に触れる。
しっとりとした細い指は温かく、小さく握りしめるほど暖かさに包まれる。
”実はぼくも今日はじめて見たんだ。ここでこんなに明るい月を見たことは初めてなんだ”
冷たいはずの風は握った手の中から暖かさに変わる。
”そっか。私も初めてなのよ。いつもいつも過ぎてった月しか見られなかったの。こんなにすんだ空で月を見たのは初めてなのよ”
歩き出しながら空を見上げ、ぽっかりと浮かぶ月を見つめる。
そばを流れていた小川は、いつのまにか大きな川に突き当たりその姿を変えていた。
”この川はね夏になると蛍がいっぱい見れるんだ。あたりを埋め尽くすほどいっぱい。その時だけはこの川も流れを止めるんだ。静まりかえった水の上をほたるが飛ぶの。その時だけ川の中にも空が現れるんだ。月のない星空みたいだってみんな言うんだよ?”
音も立てないままにゆっくりと流れる川。もうすぐ季節がゆけば遠くの山に積もった雪がとけ力強く流れ来る。
”見てみたいわ。でも私にはみえない”
立ち止まる君に腕をひかれてぼくは立ち止まる。
”私たちは夏には来れないの。この時期しかダメなの。もっといえば今日だけなの。こうして月をながめられるのも・・・・・・”
流れ落ちる君の涙にぼくは謝ることしかできなかった。
”ううぅん。いいの。この月が見えたことだけで満足なの。あなたと話せたこともうれしかった”
そういうとぼくの手を引いて君はまた歩みを始める。
しばらく話す言葉もなく、移り変わる景色だけを二人で眺める。
大きくうつむいて山陰に隠れようとする月を立ち止まり、振り返り。
”もうすぐ季節が変わるわ。そうよ春が来るの”
はっとして思わず手を離した。離れた指先から暖かさは消え冷たい風がぼくの体を包む
風が舞う月の空。ぼくは君を見つめ、君はもう一度手を差し出した。
”君が春を告げるの?”
つないだ指先から春のような暖かさが伝わる。君はにっこりとほほえんでうなづいて
”そう。私が春を告げるの。今日は無理を言って先に来ちゃった。だって私は昼間の空しか見たことがなかったから・・・・・・ ね”
吹き抜ける風に君の長い髪が揺れる。山の向こうへ沈む月が、僕らをその影の中に包み込む。
”うん。きょうはいい月だったね”
”えぇ。いい月だったわね”
ぼくらは微笑みを交換し、君の手がそっと離れる
”いい月だったね。明日から春が始まるわ”
ぼくを包む暖かさは消えぬまま、彼女はゆっくりと空へと登っていく。
”ねぇ、また会えるよね?”
ぼくは手を伸ばして、追いすがるように手を伸ばして。叫んだ言葉は風の中に消えていくように
”えぇ。また来年もその次もその次の次も。また来るからね”
こぼれ落ちる涙は風の中に消え、白み始めた空の中に溶けて消える。
手を振り続けるぼくを包む強い風は暖かくて 少しだけ寂しくて
いつもこの時期になると空を見上げる。
はじめて月の夜を明るいと感じた日、夜が明けて冬を吹き飛ばすあの風に手をふりながら
見上げるほどに月は丸く、見下ろすほどに闇が色をなくす。
息も凍るような冷たいひかり、音のない世界はだれもが音を立てることをきらう。
歩きゆくぼくの靴音だけが街に響き、月の中へと吸い込まれる。
こごえるゆびさきに、はぁっと息を当てつめたい月をながめている。
街灯さえも無い道を、明かりさえも持たずに歩く。
香る山のかおりも、近くを流れる小川の音も、すぎゆく時間とともにぼくの体に吸い込まれる。
吐き出した息は白く、街は押し黙り、鳥たちは眠りにつき、吹き付ける風は山を揺らす。
ふいに声が聞こえてふりかえる。
”こんばんわ。あなたもおさんぽ?”
月明かりにてらされて、君は暖かくほほえむ。
”うん・・・・・・ いい月だね”
見上げた月は、それはそれは大きく、はね上がる鼓動のようにぼくの中を駆けめぐる。
夜の中に沈みこんだ街は音も光りもなく、耳の奥で聞こえる鼓動。
”いい月ね。ここはこんな月がみられるんだね。ねぇ一緒に歩かない? 少しこの街のお話聞かせてよ”
長い黒髪にすきとおる声が響き、肩から伸びた細い腕がすっとぼくの手に触れる。
しっとりとした細い指は温かく、小さく握りしめるほど暖かさに包まれる。
”実はぼくも今日はじめて見たんだ。ここでこんなに明るい月を見たことは初めてなんだ”
冷たいはずの風は握った手の中から暖かさに変わる。
”そっか。私も初めてなのよ。いつもいつも過ぎてった月しか見られなかったの。こんなにすんだ空で月を見たのは初めてなのよ”
歩き出しながら空を見上げ、ぽっかりと浮かぶ月を見つめる。
そばを流れていた小川は、いつのまにか大きな川に突き当たりその姿を変えていた。
”この川はね夏になると蛍がいっぱい見れるんだ。あたりを埋め尽くすほどいっぱい。その時だけはこの川も流れを止めるんだ。静まりかえった水の上をほたるが飛ぶの。その時だけ川の中にも空が現れるんだ。月のない星空みたいだってみんな言うんだよ?”
音も立てないままにゆっくりと流れる川。もうすぐ季節がゆけば遠くの山に積もった雪がとけ力強く流れ来る。
”見てみたいわ。でも私にはみえない”
立ち止まる君に腕をひかれてぼくは立ち止まる。
”私たちは夏には来れないの。この時期しかダメなの。もっといえば今日だけなの。こうして月をながめられるのも・・・・・・”
流れ落ちる君の涙にぼくは謝ることしかできなかった。
”ううぅん。いいの。この月が見えたことだけで満足なの。あなたと話せたこともうれしかった”
そういうとぼくの手を引いて君はまた歩みを始める。
しばらく話す言葉もなく、移り変わる景色だけを二人で眺める。
大きくうつむいて山陰に隠れようとする月を立ち止まり、振り返り。
”もうすぐ季節が変わるわ。そうよ春が来るの”
はっとして思わず手を離した。離れた指先から暖かさは消え冷たい風がぼくの体を包む
風が舞う月の空。ぼくは君を見つめ、君はもう一度手を差し出した。
”君が春を告げるの?”
つないだ指先から春のような暖かさが伝わる。君はにっこりとほほえんでうなづいて
”そう。私が春を告げるの。今日は無理を言って先に来ちゃった。だって私は昼間の空しか見たことがなかったから・・・・・・ ね”
吹き抜ける風に君の長い髪が揺れる。山の向こうへ沈む月が、僕らをその影の中に包み込む。
”うん。きょうはいい月だったね”
”えぇ。いい月だったわね”
ぼくらは微笑みを交換し、君の手がそっと離れる
”いい月だったね。明日から春が始まるわ”
ぼくを包む暖かさは消えぬまま、彼女はゆっくりと空へと登っていく。
”ねぇ、また会えるよね?”
ぼくは手を伸ばして、追いすがるように手を伸ばして。叫んだ言葉は風の中に消えていくように
”えぇ。また来年もその次もその次の次も。また来るからね”
こぼれ落ちる涙は風の中に消え、白み始めた空の中に溶けて消える。
手を振り続けるぼくを包む強い風は暖かくて 少しだけ寂しくて
いつもこの時期になると空を見上げる。
はじめて月の夜を明るいと感じた日、夜が明けて冬を吹き飛ばすあの風に手をふりながら