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公営住宅:親子間継承、20道府県「認める」 「禁止は不公平」--毎日新聞調査

2007年10月20日 | 国と東京都の住宅政策
◇「配偶者のみ」国通知後も

 国土交通省が05年、公営住宅の入居継承資格を「原則、配偶者のみ」と通知したのを受け、親子間継承を認めない資格の厳格化を実施または実施予定の自治体は、全国で27都府県に上ることが、毎日新聞の調査で分かった。逆に20道府県は導入に慎重で、通知を巡り自治体間の対応に差が出ている。また、通知は障害者など住宅困窮者の特例扱いを認めているが、特例の範囲も自治体によって判断が分かれた。【夫彰子】

 47都道府県の公営住宅担当者に、電話などで通知の運用状況や特例の内容を取材した。10月現在、資格を「原則、配偶者」に限定しているのは22都府県で、埼玉、長崎など5県は来年4月の実施を予定。これに対し、20道府県は現時点で「厳格化の予定はない」と答えた。

 通知は、応募倍率が高い公営住宅の長期入居者と入居希望者間の公平化を図るのが目的。国交省の05年度調査で全国の平均倍率9・9倍を上回った8都府県のうち、厳格化したのは東京、大阪、神奈川、埼玉、宮城の5都府県だった。残る福岡、千葉、広島の3県は、従来通り親子間継承を認めている。

 厳格化に消極的な自治体は、「入居条件を満たす人を、資格の観点だけで追い出すのは問題」(茨城)、「住宅困窮の理由はさまざま。個別事情への配慮を欠く厳格化は逆に不公平」(新潟)など、公営住宅のセーフティーネット機能を重視する意見が多かった。愛知県の担当者は「強制退去は一種の居住権侵害。行政の権限がどこまで認められるのか不透明」と、法的根拠に疑問を呈した。

 特例範囲については、大阪、山口など11府県は障害者手帳の交付者すべてを対象にしている。一方、16都県は基準を定め、比較的軽度の障害者には特例を認めていない。東京都と岐阜県は身体障害の程度が2級までと基準がより厳しかった。こうした中、東京都八王子市議会は先月27日、「(厳格化は)都営住宅居住者の人権と生活にかかわる重大問題で、都の規定が最も対象を狭めている」と、条件の緩和を求める意見書を可決した。

 ■解説

 ◇住宅格差解消が先決

 公営住宅の継承資格を厳格化する国土交通省通知は、公営住宅の入居希望者が多く応募倍率が05年度に全国平均で9・9倍と8年連続で上昇する一方、親子間継承により同一親族が長年入居し続けるという「入居機会の不公平」を解消するのが目的だった。しかし、通知を巡る自治体間の温度差は、厳格化により「住宅のセーフティーネット」で救済される対象が地域によって異なるという別の不公平を生む現状を浮き彫りにした。

 厳格化に慎重な自治体には、収入面などで入居条件を満たす居住者を、継承資格だけを理由に退去させることへの疑問がある。公営住宅は母子家庭や障害者世帯など高家賃の民間住宅には入りづらい世帯が多く、入居者そのものが「住宅困窮者」と言える。ある自治体の担当者は「公営住宅は行政と県民いずれのためにあるのか。後者の視点に立てば、社会的弱者を対象にする厳格化には踏み切れない」と力説する。

 厳格化を実施した自治体もジレンマを抱える。05年度の応募倍率が全国最高の32倍だった東京都では、00年から都営住宅の新規建設がない。都市人口の増大で公営住宅の建設が相次いだ60~70年代と異なり、「今後は少子化で民間住宅も含めた住宅の供給超過が起こりうる」(都都市整備局)との懸念に加え、建設費もばく大で「これ以上の新規建設は無理」と同局は厳格化に理解を求める。

 住宅政策に詳しい大本圭野・東京経済大経済学部教授は「公営住宅の応募倍率は上昇し続けている。住宅格差の背景には社会的、経済的格差の拡大がある。国は格差解消に努めるべきだ」と訴える。

 ◆入居継承資格の厳格化実施状況◆

北海道 ×

青森  ○

岩手  ○

宮城  ○

秋田  ○

山形  ○

福島  ○

茨城  ×

栃木  ○

群馬 ※○

埼玉 ※○

千葉  ×

東京  ○

神奈川 ○

新潟  ×

富山  ×

石川  ○

福井  ×

山梨  ×

長野  ○

岐阜  ○

静岡  ○

愛知  ×

三重  ×

滋賀 ※○

京都  ×

大阪  ○

兵庫  ×

奈良  ×

和歌山 ×

島根  ×

鳥取  ○

岡山  ○

広島  ×

山口  ○

徳島  ×

香川  ×

愛媛  ×

高知  ×

福岡  ×

佐賀 ※○

長崎 ※○

熊本  ○

大分  ○

宮崎  ○

鹿児島 ○

沖縄  ○

○…実施(※は予定)

×…未実施

毎日新聞 2007年10月18日 東京夕刊


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