重ねて言うが、ネット政変以降、第一公募世代から第4公募世代に至るまでの仕事は、インターネット国民アンケート機構で決定された案件を条文化し、公布・執行する事。
だからその国民の意思を着実に遂行するため、あくまでも一切のエリート意識を排除した信頼のおける愚直で誠実な庶民でなければならない。
その中に個人的私利私欲な野心は、微塵も紛れ込ませてはならないのだ。
一般社会のスーパーやコンビニの店員、飲食店の店員が誠実な接客に徹し、お釣りや売上げ金を責任を持って一円の間違いもなくチェックし管理するのが当り前のように、ネットで任命された行政執行者には、国家予算や行政の隅々に至るまで、正直で誠実な仕事が求められる。
『平和・平等・誰もが安心して暮らせる社会』の崇高な理念の下、平助たちは奮闘していた。
平助たち全メンバーのデスクとモニターには、日夜国民の要望がダイレクトに表示され、今国民は何を求め、どんな問題を抱えているかがタイムリーに把握できるようになっている。
例えば井口外相が国際会議で奮闘中、厚労省では年金制度の狭間で苦しむ生活者や、生活保護を受けられず困窮する人々への適正な救済に向けて、真っ当な常識と感覚を持ち対処し汗を流している。
だから年金や生活保護で生活する人々が人としての尊厳を守られるのは当然であるが、どんなに頑張っても低所得に甘んじなければならない劣悪な労働環境にあるパート・派遣労働者などの人々が、そうしたセーフティーネット層より生活が下回っては本末転倒である。
だから派遣制度やパート労働の問題点にメスを入れ、ここにも取りこぼしがあってはならない。
また、難病に苦しみ、ままならない人。
ヤングケアラーや、老々介護で苦しむ世帯。
身体に障害を持ち、生活が困難な人。
それら弱者と呼ばれる人たちが笑って暮らせるよう、温かい社会を形成する事が平助たちの責務として期待されている。
そうした政策を実行するには、それに耐える盤石な財政基盤の確立が急務であり、今まさに全力で取り組まれていた。
そのため経産省・資源エネルギー庁が主体となり、その目的を達成するため新たに設立された国営企業体が領海内の資源エネルギーの採掘を一手に引き受け、間もなく商品として市場に流通できる段階『フェーズ4』を迎えていた。
国内消費分は勿論の事、国際市場にも流通させるため、鋭意努力している政府。
ただ市場に売り込むだけでは、既得権益を犯される勢力の反発と妨害を産むだけであり、決して成功できない。
だからアメリカへの根回しと、産油・流通市場の中心である中東産油国への気遣いが必須となる。
アメリカはともかく、中東産油国には、原油の供給で長年散々お世話になっておきながら、自国で賄えるようになったら掌返しで市場を奪う行為は看過できないだろう。
それ故、現在まで良好な関係を維持してきたパイプを生かす国際協力が必須となる。
日本が市場参入する分、産油国の輸出における原油の脱依存度を高め、脱石油の産業構造を構築するため、あらゆる協力を惜しまない。
そのための技術と資金力を持つ日本。
インフラ整備や技術移転、実業ノウハウの提供など、様々な分野で協力してきた。
石油に頼らずとも済む産業立国。それが中東産油国の悲願。
(例えば実際サウジアラビアやイランなどは、インフラ整備よりも日本に期待する育成分野としてアニメが根強い人気があり、自前のアニメーター育成に本腰を入れ始めている。それらは日本の得意分野であり、大いに協力できる産業であった。また、鉄道敷設・安全正確な運行技術の習熟や、各々の国の特性を生かした先端技術のノウハウなどの非軍事技術。)
すそ野を広げ惜しまず協力し、共に歩むのが日本のスタンスなのだ。
そうした努力を経て、ついに日本の悲願でもある国内流通によるエネルギーの自立を達成できる段階にまで到達した。
それが充分浸透してきたら徐々に国際市場に参入し、レアメタルの開発と平行しながら、輸出産業の発展に寄与できる段階にようやく到達したのだった。
財政健全化とは、そうした創意工夫の努力が必要なのだ。
一方、平助の家計は時給1800円の収入を得る事により、多少の余裕が出てくるようになった。
もう≪スーパー激安≫の値引きシールに頼ることなく三食の調達が可能になり、何よりカエデがほぼ毎晩、夕食を手作りで用意してくれるので、非常に助かっている。
もちろん総理大臣の立場上、支出も増えてくるので、そう大きく貯め込む事ができる訳でもないが。(角刈り三人衆と夜ごと居酒屋に繰り出していては、貯金なんて到底無理と云うもの。総理大臣の立場って大変ね・・・・少々皮肉です。)
そんなある日。
珍しく角刈り三人衆は居酒屋に行かず、平助の蓬莱軒二階のアパート一室にてささやかな夕食を摂ることにした。
その日のメニューはカエデが作ったカツカレー。
美味しい、美味しいと言いながら頬張るカレーは、何故か幼い記憶に残る懐かしい家庭の味だった。
奇しくもカエデを含む四人は早くに母親を失い、もう何年も母の味を口にしていない。
そのせいなのか、頬張りながら涙が出て来た。
「このカレー、美味いけど辛いな。」
「そうか?僕はそんなに辛く感じないけど?」
「子供の頃おふくろが作ってくれたカレーは、もっと甘口だったからかな。」
「お子ちゃまか?杉本さんは!ホラ、そんなに涙を流して。」
「涙とチャウ!!これは心の汗じゃ!」
「どっかで聞いたフレーズだね、ハハハ。でもこのカレーは懐かしい味がするよ。
ありがとう、カエデさん。」
そう言って泣き笑いの田之上がカエデに感謝する。
三人の高評価で面目を保ったカエデは上機嫌。
「どういたしまして!平助には度々作っているから少しは上達したでしょ?
ね、平助。」
「そうだね。『石の上にも三年』だ。カエデもようやく母の味を出せるようになったようだ。」
「石の上にも三年?その例えはどうかと思うぞ。」
「そうだよ、それに平助君とカエデさんは、そんなに長い間深い関係だったのか?
ヒューヒュー!ヨ!お二人さん!!」と思いがけないところで囃し立てられ、
「そんな深い関係じゃないし!」
と平助・カエデが同時に返した。
「やっぱり息がピッタリだ!流石おふたりさん!」
藪蛇の反応にたじろぎながら、内心はまんざらでもなさそうなふたり。
平助は居心地悪そうに話題を変え、政治談議に白熱した議論を交わしだす。
それを脇で熱心に聞き入るカエデ。
そうして今夜も更けてゆくのだった。
つづく