私の名は幸。5歳の女の子。
今日はクリスマスイブだそう。お母さんがそう教えてくれた。
「クリスマスイブって何?」
「今日はとってもおめでたい日の前の日なのよ。」
「????」
「幸は去年も一昨年も一緒にクリスマスを過ごしているわ。でも幸は覚えていないのね。そうね・・・、去年も一昨年も幸は幼かったし、お母さん、身体が弱くて何もしてあげられなかったものね。覚えていなくて当たり前よ。ごめんなさい、幸。でもその分、今年こそお父さんとお母さんと一緒にお祝いをしましょうね。」
「そうなの?よくわからないけど、何だか嬉しい!!」
そう聞いたせいか、今日はいつもと違うみたい。だって、お外の行き交う大人たちはセカセカ速足で歩くし、街にはシャンシャンシャンシャンという音と共に、心がウキウキする音楽が流れている。
きっとだからだろう、いつもは体の弱いお母さんまで、まるで生まれ変わったかのように生き生きしている。
お母さんったら、いつも今日のように元気だったら良いのに。
そんなお母さんは何かを決心したかのように、いつもはしない手の込んだ料理に取り掛かっている。
どうやら手作りのケーキと、チキンのごちそうのようだ。
夜になり暗くなってくると、大好きなお父さんが仕事から帰ってきた。
寒いお外から帰ったばかりのお父さんは、幸に冷たいほっぺで頬ずりし、「ただいま!幸。いい子にしていたかな?」と優しく尋ねてくる。
「うん!幸、今日はいい子だったよ!ほら、見て!お母さんがこんなごちそうとケーキを作ってくれたよ!早くお父さんが帰ってきて、一緒に食べたいなと幸ずーっと待ってたんだよ!」
「【今日は】いい子だったのか・・・。いつもいい子だったら、お父さんもっと、もーっと嬉しいんだけどな。まあいいや、きょうはめでたいクリスマスイブだし、今日の幸は良い子だったんだから、それで良しとしておこうか?」
「うん!それで良しとしておこう!」元気に応える幸だった。
「お父さん、早く皆で食べようよ!早く、早く!!」
「待って幸。そんなにせかさないで。今用意しますからね。ほら、お皿をテーブルに並べるの手伝って。」お母さんは幸を優しく誘った。
「うん!その間にお父さん、手を洗ってきてね!」
「何だ幸、口ぶりがお母さんに似て来たな。ハイハイ、分かりました、急いで手を洗ってくるね。」
テーブルに料理が並べられ、使い古した小物の食器をキャンドルスタンドに見立て、ろうそくに明かりを灯す。
暗い部屋の中で、ろうそくの廻りだけがゆらゆらと明るい。
「わぁ、キレイ!!お父さん、お母さん見て!ろうそくの明かりって魔法みたいね。何だか不思議な事が起こりそう!!」
「そうだね。今日はクリスマスイブだから、幸が言うように何か不思議な事が起こるかもよ。」
「そうね。きっと幸が欲しがっていたものがお空から降って来るかもね。」そう言ってお母さんも笑顔で請け合う。
「お空から?だってこんなにお外は暗いし、屋根があるから何も降ってこれないでしょう?」
「でもね、今晩だけは、良い子のところにだけサンタさんがやってきて、何か良いものをプレゼントしてくれる日だから、もしかして幸のところにもこっそり欲しがっていたものをプレゼントしてくれるかもよ。楽しみだね。」
「本当?だったら幸の所にも絶対来て欲しい!
サンタさん?プレゼントくれる人はサンタさんって云うの?どうか幸の所にもサンタさんが来てくれますように。」
「それじゃぁ、食べたら早く寝ましょうね。サンタさんは早寝できる良い子の所にしか来れないから。」
「どうして寝た子の所にしか来れないの?」
「だって、サンタさんは恥ずかしがり屋さんだからさ。プレゼントを置くところを見られたくないんだって。」
「分かった!幸、早く寝るね。そうしたらサンタさん、早く幸の所に来てくれるかな?」
「そうだね。きっと一番に来てくれると思うよ。」
「わーっ!楽しみ!!今日は楽しみな事がいっぱいあったわ。お父さん、お母さん、幸もう寝るね。おやすみなさい。」
翌朝外には雪が積もっていた。
幸はいつものように目を覚ますと、ボーっとして暫くは昨日の事を思い出せずにいた。
でも、枕元にふわりと何かを包んだ包み紙を見つけると、「わー!」と声を上げ、全てを思い出した。
「サンタさんのプレゼントだ!お母さん、お父さん!見て見て!サンタさんが幸にプレゼントくれたよ!開けてみて良い?」
「おはよう、幸。今朝はやけに早起きだね。どれ、包みを開けてごらん。」
「わぁー!幸がいつも欲しいと思っていた毛糸の帽子と毛糸の手袋だ!見て!見て!とってもすてき!!ほら、毛糸の帽子には可愛いボンボリがついているし、赤い毛糸の手袋は親指のところとそれ以外の指が、別々に入るようになってるし、大きな白いお星さまのマークがついているよ。それにこっちの(右の)手袋と、こっちの(左の)手袋が毛糸で編んだ紐で繋がってる!!凄い!凄―い!!」
「良かったね幸!とても良く似合うよ。何てかわいらしいの!!お空に向かってサンタさんにちゃんとお礼を言うんだよ。」
「ウン!」幸は勢いよくそう答えると、新雪が積もるお外に出てサンタさんに大声でお礼を言った。
お空の向こうからサンタさんが笑顔で応える声が聞こえる気がした。
幸は嬉しくなり、降り積もったばかりの雪を両手の手袋いっぱいにかき集め、お空に向かって放り上げた。
雪はさらさら散らばり、キラキラ光りながら、ゆっくりと幸の顔に落ちて来る。
その様子を窓の中からお父さんとお母さんが寄り添い、目を細めて見ていた。
「お母さん、よく頑張って編み上げたね。身体も本調子ではないのに、きつかっただろう?」
「そうね。私は編み物下手だし、体調があまり思わしくないから長い時間作業ができないし、とても長い期間かかったわ。もう、何カ月もやっていたみたいな気がする。何度も失敗して編み直ししなければならなかったし、今日に間に合ったのは奇跡よ。
でも幸のあんな幸せそうな様子を見たら、頑張った甲斐があったと心から思うわ。」
「いつまでもこの幸せが続くといいね。」
「そうね。」お母さんは心からそう言った。
寄り添うふたりと元気な幸に幸福あれ!
神様も心からそう思った。
つづく