プラムフィールズ27番地。

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◇ 吉村順三・中村好文「吉村順三・住宅作法」

2008年02月13日 | ◇読んだ本の感想。
吉村順三と中村好文の師弟対談集。……ではないな。やはり中村好文はインタビュアーに徹していて、
吉村順三が語る、というスタンス。多少中村好文が語るところもあるけど。
この本は建築家、建築学科の学生にぜひ読んで欲しい。

図書館でその場読みしたので、引用が出来ないのだけれど。
そーだよねっ!と拳を握りたくなる発言が多々あった。正確な言い回しではないが、

「使いにくくちゃしょうがないでしょ」

「住宅は、思いつきで作るには犠牲が大きすぎますからね。建築家の思いつきに施主は
何十年も住むわけだから」

やっぱりこの師弟は好きだ。彼らはちゃんと建築は住む人のためのものだということをわかっている。
わたしは、建築家は住む人のためにものすごく細かいあれこれまで気を配ってくれるからこそ
偉い、と思っているんだけど、この本で、それが再認識出来た。
建築を単なるオブジェ、あるいは空間デザインだと思っている人には絶対出来ない芸当。


たとえば、暖炉。

吉村順三は暖炉が好きな建築家で、あちこちの住宅で暖炉を作っている。
……わたしは、憧れつつも、暖炉は一般的に日本の住宅に合わないとは思っているけどね。
合わないというより、やり過ぎというか。薪の確保、火を熾す手間、火や煙の処理などを考えたら
一般住宅ではやらない方がいい。軽井沢の別荘とかなら別だけど。
もちろん、施主が暖炉を欲したから(少なくとも認可したから)作ったのだろうし、
スポンサーが欲しいなら、暖炉の必要性については不問で良い。

彼は暖炉をなるべく浅く作れと言っている。理由は火の場所が奥まっていると、
温まる範囲が狭くなるから。奥まった場所からの熱放射は、開口部との関係を考えると角度が狭まる。
火の回りでみんなで談笑するのが本来の目的なのに、正面に座った2人くらいが温かく、
ずれて座った人に熱があたらないのでは、意味がないとのこと。
普通に考えれば、こういうことを考えるのは当然だと思うでしょ?
でも原何某あたりだとこういうことは全く考えない。(と思う。)
もっと基本的なレベルの使い勝手も考えてないくらいだし。

浅く作るのもけっこう難しいと思うんだよねー。
浅く作った時、火事対策が気になるなあ。日本家屋は基本的に可燃物ばっかりだから、
火花でも飛んだらどうなるのかと……。暖炉は、風の通りなんかも形や場所で千差万別だから、
普通に「火を燃やす」ことだけで、けっこう大変らしい。
弟子あたりだと、なかなか燃えてくれない暖炉が出来あがることもあるらしいよ。
中村好文も暖炉を何度か手がけているらしいが、その時はちゃんと模型を作って、線香を使って、
煙の流れを確かめるそうだ。こういうことをちゃんとやっている人は好きだ。



この師弟は微笑ましい。中村好文が吉村順三を好きで、その作品も大好きだということがよくわかる。
吉村順三。人格者だったんだろうなあ。じゃなきゃ、中村好文の、まるで慈父に対するような
気の使い方なんかは納得出来ませんよ。師弟とはいえ、上司と部下の関係でもあったわけで、
部下に敬愛される上司ってそうそういるもんじゃない。
吉村順三の「軽井沢の山荘」なんか、中村好文はしばしば言及するけど、べた惚れだもんね。
幸福な師弟関係だったんだろうなあ。


中村好文の作品も、詳しく見てみたいものだが。
でもこの人、個人住宅をメインにやっているようで、そういう形だとなかなかメディアには
取りあげられませんよね。残念だ。吉村順三ゆずりの、住む人に気持のいい設計がどんなもんか、
出来れば見たいんだけど。



吉村順三・住宅作法
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