『新編金瓶梅』 滝沢馬琴 一巻 右上部分 四ウ(右頁 後半) 〜五オ 左下部分(左頁)
右上部分 四ウ
【発端の巻第三】むかしむろ町持ぐんのすその世にやま(、、、)
やせのさとに矢瀬(やせ)文具(ぶんぐ)兵衛、大むらの浅里(ふべぐ)孫といふ
百姓はらからありけり、先祖(せんそ)ハよしあるの郎ふにてやせ大
はらのやらう者也けるに、みだれたる世のならにて子
孫(そん)、そのちをうしなひハよりつひに民間(ミんかん)かつくだり
三四代いぜんのよりたが中人になりざれども
なほむかしのなごりにて、兄ぶんぐ
兵衞あのやせのむらをさを
つとめけり、されバ矢瀬も
大むらも初代(しょだい)ハする
いちはらからにてなかん
づく、大むらハその
ちやく家(か)也けるに
ちかごろそのいへさへ
たりければ文具兵衞
おやのときになん文具兵衞に大むらの
いへをつがせて、やがて大原氏を名のる
そのいへ先祖(せんそ)相博(さらでん)の田むら
三町八たんハすなハち(、)もち義が所
帯(しよたい)としてながく相続(さうぞく)すべしとて、一家(いつけ)は
るい連名(れんめう)の証文(あかしふミ)をぞわたしおきける、
しかれども、文具兵衞ハいまだ分家(ふんけ)以
ざりしに、ちゝ母うちつゞきて倒
まづもつ、且らく中洛外
(らくぐわい)としてはて
かひはばく
なるにより
こゝち
五オ 左上部分
くわぶんの軍ゆくを
あてられていへをつく
なに余力(よりよく)なけれバ兄文具
兵衞と同居(どうきよ)せにはらからむつまじ
かりけれ、これのれどもにつまをめとりてひとつ
かま(、)ぜありながらちとのくぜちもなし
たるがこれにハいまだ子どもあらず、又文具
義ぢづまハ折羽つりとよばれて、こぞにをのこゞ
ふたりまでう、みたりしそのかひ子を残(、、)と名
つけてことしハ三方て二男剋ハこのはや うまれしを武松
(たけまつ)と名つけたり、四ばかりの子どもらをやしなひて死に
あらねども、いぬる、応仁(あうにん)の乱(らん)より生るのみぞ
こハ名のミにてとくにあれまさりけるの つばめハ木すゑに
そつくりあきの者かハ、大うちの、みかきのもとまでかよふかりされ
そのかミいひ尾彦六さゑもんが 「なれやしるみやとも歌べの
夕ひばりあるを見てもふつるゝ人なりハひをうし
なひて(函)内散(りさん)するものをほうりけり
まいて、みやこにほどとほからず、ゐなかハ
いよ/\ふところへはてとゆたかるものとてハ
いづこのもあることなきよにあまた人この両三
ねん、ひそん水(すい)、そんうちつぎのほかにかて
ともしく食(しよく)する者ハあきたらず、きるものも 亦
あたゝかならず、すげにみだれたまひハ、とにもかくにもせんかたなし
このゆゑに文具兵衛来る日,武具蔵と、たんかにするやう人のいへの【↓ 右の下】
右下部分 四ウ 左下部分 五オ
【▲左上ゟ(より)】いひけんを
いふぞや
かくうち
そろふて
よもき
かけをのと
めんとり
た口(、、)
白きかたぎ
ながの困(こん)
きうを者の
くに足猿
べし、五きない
こそかくの
ごとく衣食
(いしよく)にともしく
なり
たれ
よも
【次へ】
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