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人間関係学を学び続ける学徒の試行錯誤

多国籍世帯に対する相談援助

2019-11-06 09:09:50 | コラム

 首都圏近郊にあるA市では、2014年以降外国籍世帯が増加している。ブラジルやペルーなど南米系の住民は減少傾向であるが、中国やベトナム、タイなど東南アジア系の住民が急増している。また、男性の方が女性よりも増加率が高い。その背景には、日本人労働者不足に伴う外国人労働者の需要増がある。外国人労働者は家族を伴いA市に転入し、それに伴い、市内の外国籍の児童・生徒数も増加している。

 筆者は、ある公立小学校の関係者に、外国籍世帯のなかでも最も生活問題を抱えているのは母親であるといわれた。その理由として挙げたのは、子どもは、最初は学校生活で言葉の壁があるが、例えば市の教育委員会が設置する「国際交流教室」などの取り組みによって学校や地域とつながることが可能になってきている。また、父親も、職場を通して、地域社会とつながっていくことが可能であるが、母親は言葉の壁、文化の壁に阻まれ、一人家庭のなかに引きこもり、地域社会から孤立してしまうリスクが高いことである。ここでは、このような外国籍世帯の母親に対するソーシャルワーキングについて考えてみる。

 まず、ミクロ・レベルでのアプローチであるが、このような孤立した外国籍世帯の母親のケースではアウトリーチが重要になる。この地域を担当するソーシャルワーカーは、民生委員・児童委員や自治会などと連携して、ケースの発見を行う。そして、ソーシャルワーカーは通訳を同行するなどして対象となる母親のAさんを訪問し、インテークを行う際には、文化の違いや生活様式の違いを十分に配慮する必要がある。また、校区担当のスクールソーシャルワーカーと共にAさんの子供の様子を見たり、Aさんの夫と個別面談したりして、共同体で孤立や虐待等のリスクを含めた生活問題を把握しアセスメントを行う。

 外国人であるAさんが抱える生活問題には、周囲の日本人の同一性を好む性質に起因するケースも考えられるため、問題をAさんの個人的なものとして捉える医学モデルのアプローチよりも、Aさんを環境との接点に位置づけ、環境との相互作用のなかでAさんを捉える社会モデルによるアプローチの方が有効な場合がある。そのような場合は、メゾ・レベルのアプローチとして、ソーシャルワーカーは小中学校、地域の民生委員・児童委員、自治会などと連携し、さまざまな情報を多角的に収集し、Aさんと地域住民の共生についての課題を把握し、詳細かつ統合的なアセスメントを実施する。そして、Aさんや家族と協働して地域住民がこれらの問題を「わがこと」としてとらえるような環境づくりを進めていく。

 さらに、ソーシャルワーカーは、ミクロ・メゾ・レベルでAさんへの援助を進めていくなかで、人権擁護など地域社会全体による支援が必要となる課題が明確となった場合には、関係する諸機関、専門職等と連携して地域住民に対する意識啓発などを行い、AさんがAさんらしい生き方を地域社会で実現できるようなまちづくりをマクロ・レベルの援助として推進していく。

 

〔参考文献〕

1. 新・社会福祉士養成講座6「相談援助の基盤と専門職」第3版 中央法規、2015年

2. 新・社会福祉士養成講座7「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷  中央法規、2018年

3. 「社会福祉士相談援助演習」第2版第6刷 中央法規、2018年 

 

 

 

 



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