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哺乳類進化研究アップデート No.19ーゲノミクスが明らかにした病気の起源①

2022-04-09 15:28:21 | 哺乳類進化研究アップデート

先日の記事「哺乳類進化研究アップデート No.18ーシュプリンガー・ネイチャー社の推す2021年進化生物学論文」に入っていた論文の一つである②「進化の歴史が人間の健康と病気に及ぼす影響」を取り上げて、何回かに分けて紹介したいと思います。

米国ヴァンダービルト大学のメアリー・ローレン・ベントン博士らによるレビュー論文「Benton, M.L., Abraham, A., LaBella, A.L. et al. The influence of evolutionary history on human health and disease. Nat Rev Genet 22, 269–283 (2021).」です。進化学の視点で病気の原因などを解明する進化医学という分野において、最近の進展が網羅的にまとめられているので、読んでみたいと思います。

 

ゲノム解析の進歩

ヒトの遺伝子、つまりゲノム配列が病気の原因になったり、かかりやすさに影響するのですが、ヒトのゲノム解析はどこまで進んでいるのでしょうか。現在、12万を超えるヒト全ゲノム配列が公開されており、さらに数十万のゲノムデータが一般消費者向けゲノム解析企業によって作成されています。また、巨大なバイオバンクにより、世界中の数百万人の遺伝子型(遺伝子変異のあるなし)と表現型(いろいろな病気のあるなし)が明らかにされつつあります。 これらの研究により、病気の遺伝子構造に関する理解が大きく変わりつつあるということです。また、数千年前の生物の遺体から古代のDNAを抽出し、配列決定することが可能になったため、人類の適応の歴史を高い解像度で再構成することができるようになったそうです。

 

遺伝子と疾病リスクの関係

下のグラフは、疾病リスク(y軸)は、遺伝子型(それぞれの色付線)と環境(x軸)の両方の関数である(両方によって決まる)ことを模式的に示しています。A、B、C、Dは、遺伝子型の4つのパターンを例示しています。

A線(赤線)は、すべての環境において疾患を引き起こすような種類の遺伝子型を示しています。メンデル遺伝疾患の中でも極端なグループです。一方、D線(紫線)は、環境と遺伝子型が非常に特殊な組み合わせの場合にのみ、病気のリスクが生じる場合を示しています。その例が、フェニルケトン尿症(PKU)で、フェニルアラニン水酸化酵素の両方のコピーが機能しなくなる突然変異と、フェニルアラニンを含む食事がある場合にのみ発症する病気です。そして、B線(青線)とC線(黄線)は、A線とD線の中間的な位置に相当し、多くの病気が該当します。

このように、病気は多くの場合、遺伝子型と環境との間の根本的な進化的「ミスマッチ」から生じています。例えば、現代人の多くが、遺伝率の高い(30-40%)慢性疾患である肥満のリスクを高くしている原因の一つは、人間のライフスタイルの急速かつ最近の変化、例えば高カロリーの食品を食べ、より座りがちなライフスタイルを続け、睡眠時間を短くすることに起因しています。ここでは、遺伝子型と急速に変化する環境との間の「ミスマッチ」によって肥満が顕在化している。遺伝子型はしばしば、異なる形質において相反する効果を発揮します。この進化的パターンは拮抗的多面性と呼ばれ、しばしば疾病の原因となります。典型的な例として、ヘモグロビン・サブユニットβ(HBB)遺伝子座の変異は、マラリアに耐性を示すため身を守ろうとする正の選択の力と、鎌状赤血球貧血を引き起こすことに対する負の選択の間で、一定のバランスがとれている、つまり「トレードオフ」の状態にあります。これらの例が示すように、現代人の病気の多くは、集団が環境の変化に適応していないミスマッチのため、あるいは以前の適応が健康と適応との間のトレードオフにつながったために存在しているのです。しかし、病気はいつの時代にも存在するもので、現代社会だけの産物ではありません。表現型にばらつき(多様性)がある限り、病気は避けられません。ある個体は、ある環境においては他人よりも適しているというだけです。また、他の進化的な疾病の原因として、進化は完璧な身体をもたらしたわけではないということや、別個に進化してきたそれぞれの遺伝子や身体システムは一定の妥協点でバランスを取っているためその妥協点を乱すような条件が加わると病態につながるということも考えられています。



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