マインドフルネスという原始仏教の瞑想法から宗教色を抜いて様々な疾病の治療のために利用する方法を、著者が創設したストレス・クリニックで実践し、その経験を元に初めて本の形で示されたものである。現在ではグーグルなど米国を中心に有名企業の研修にも取り入れられるなど広く展開しているマインドフルネスを、誰でも実践できる形で提示した原典といえる本だろう。1990年に米国で出版され、1993年に日本語版が出た。そのときの書名はいまとは違っていて「生命力がよみがえる瞑想健康法―“こころ”と“からだ”のリフレッシュ―」であった。本書の概要をまとめてみた。
≪概念と心得≫
・人生はやっかいごとだらけである。人間としての限界や弱さ、病気やけがや障害、個人的な敗北や失敗、愛する人の死や自分の死、といったことで味わう絶望感、痛み、恐怖感、不安感、無力感など、人間はみな、それぞれの「やっかいごとだらけの人生」をかかえて生きている。この「やっかいごとだらけの人生」をまるごと抱きしめてしまい、うまく対処できるようになる方法をこの本は示している。
・瞑想したり、自分の心の動きに注意を集中していくと、自分の心が、現在よりも過去や未来に思いをはせている時間のほうがずっと長いことに気がつく。つまり、多くの時を「自動操縦状態」で習慣的にすごしている。とくに、危機に直面したときや、感情が激変したときには、不安感がすべてを圧倒してしまい、現在への意識をいっぺんに曇らせてしまう。比較的リラックスしていても、気にかかることがあると、感覚もそちらへ向きがちになる。
・「マインドフルネス瞑想法」では、瞬間瞬間を意識することを学んでいく。そこでは、努力すること自体が目的になる。正式な瞑想トレーニングにそれほど時間をかける必要はなく、目ざめているすべての瞬間を意識的にすごす、例えばゴミを出しに行くとき、食べるとき、運転するときも、おのずと注意をはらうようになれるようにする。
・ストレス・クリニックを訪れる人の中では、疑いながらもとりあえずなんでも受け入れてみようとする人に最も効果が現れる。瞑想トレーニングに取り組むにあたっては、次の七つの態度が重要である。①自分で評価を下さないこと、②忍耐強いこと、③初心を忘れないこと、④自分を信じること、⑤むやみに努力しないこと、⑥受け入れること、⑦とらわれないこと。
・⑤については、例えば血圧を下げるとか、痛みや不安を取り除くというゴールをあげた人でも、血圧を下げようとか、痛みをなくそうとはせずに、ひたすら今の状態を受け入れるようにする。
・⑥については、今の自分の状態に不満があっても、改善してからの自分ではなく、今の自分を好きになる、今のあるがままの自分を受け入れるようにする。
・瞑想を毎日続けるという意志をもつ。自分に合った時間を選ぶ。眠い状態では、集中力は生まれない。はっきりと目がさめた状態で取り組む。困惑、疲労、憂うつ、不安といった精神状態は、練習を続ける意志を妨げてしまう。
≪実践法≫
・マインドフルネス瞑想法には、おもに次のようなトレーニングがある。「静座瞑想法」「ボディー・スキャン」「ヨーガ瞑想法」である。いずれについても呼吸に注意を集中することが基本となり、まず呼吸法のエクササイズを行う。
・呼吸法は坐禅に近い。座って呼吸に注意を集中する。自分の心が呼吸から離れたことに気がついたら、そのたびに呼吸から注意をそらせたものは何かを確認して、静かに呼吸に注意を戻す。それがわたしたちの仕事である。
・「静座瞑想法」において、何かを考えてしまうことが悪い瞑想で、何も考えないことが良い瞑想であると考えるのは間違いである。問題は、考えている自分に気がつくかどうか、そして気がついた時点でどうするか、である。だから、瞑想中にどんなにいろいろな思いがよぎっても、瞑想に支障をきたすことはない。「静座瞑想法」には、「呼吸と共に座る」「呼吸と心の一体感を味わいながら座る」「音と共に座る」「心の中の思いと共に座る」「あるがままの意識と共に座る」の5種類の方法がある。
・「ボディー・スキャン」は、横になって、体の各部位に注意を集中してスキャンしながら、観察する方法である。ここでも、何かを得ようと期待するのではなく、瞑想すること自体を目的として励むのが最良の方法である。
・「ヨーガ瞑想法」は、横になってやる方法と立ってやる方法がある。リラクセーションが得られ、筋肉や骨が丈夫になり、柔軟性も出てくるようになる。体をいたわるために体を使うという考え方である。
・「歩行瞑想法」は、歩くという体験に意識的に注意を向けるトレーニングで、足の感覚、体全体の動き、呼吸などに注意を向ける。ほかのことに気を取られにくい場所でやるのが望ましい。
・ストレス・クリニックでは、1日に45分から1時間、週に6日間、上記の「歩行瞑想法」以外の3種の瞑想法を組み合わせて瞑想トレーニングを最低8週間続けてもらっている。しかし、5分しか時間が取れなかったとしても、毎日続けることが大切である。
・1日に1回は、「ふだんの瞑想トレーニング」を行う。例えば、朝起きたとき、歯を磨いているとき、シャワーを浴びているとき、体を拭いているとき、服を着ているとき、食べているとき、運転しているとき、ゴミを捨てるとき、買物をしているときなど、日課となっている行動の一つ一つの瞬間に意識を向ける。
≪様々なストレス各論≫
【痛みについて】 瞑想には、傍観者的な見方が必要である。あらゆる思いや感情を手放すと、すべての概念が静寂の中に溶けていく。そして、あらゆるものを越えた意識だけが残る。この静寂の中で、「自分」は、「自分の体」とは別の存在であるということを知るようになる。「体の痛み」も自分ではないということになる。
【対人ストレスについて】 人間関係とは、反応するものではなく、対処するものである。自分が無意識のうちに受け身になっていたり、攻撃的な反応を示しているということに気づいていなければ、対処法は考えようもない。たとえ脅威とか怒りなどを感じたとしても、コミュニケーションに意識を集中することができれば、人間関係を大幅に改善していくことができる。自分の感情を意識してそれを受け入れると同時に、相手を認め相手の感情も共有するようにしていかなければならない。コミュニケーションに対する注意集中力を養う方法として、対人ストレスに関する記録をつけるやり方もある(巻末に記入様式あり)。
【仕事ストレスについて】 ほとんどの人は、いつも同じ方法で、自動操縦状態で習慣的に仕事をしている。これでは仕事だけでなく、生活全体が行きづまってしまう。仕事にも瞑想を取り入れることで、生活の質を大幅に改善できる。現状を変えるためには、転職しなければならないというわけではない。今の職業を「瞑想トレーニングの一部だ」「自分自身のための仕事だ」と考えるだけで、その仕事を自分が意識的に選択しているという積極的な気持ちに変えることができる。仕事ストレスに対処する方法として、16個の具体的な行動が提案されている。
≪その他≫
・「愛と慈しみの瞑想」という瞑想法がある。この瞑想は、他者を慈しむ気持ちや寛大さ、好意や愛などの感情をもたらし、心をおだやかにする。まず、呼吸への注意集中により心を安定させたら、自分自身、気になる特定の人物、自分が愛情を感じている人たち、関係がうまくいっていない人、生きる気力をなくしているような人、地球上のあらゆる生きものや地球自体に向けて順々に、愛や慈しみの気持を思い浮かべるようにする。最後に自分の体と呼吸に注意を戻し、あらゆる生きものに対する温かい気持ちや愛情をいだいたまま瞑想を終える。
・人間とペットが一緒に暮らすということは、人間にとってだけではなく、動物にとってもストレス低減にいい影響を与える。
・リラクセーション・テクニックは、終わったときにリラックスできていなければ失敗ということになる。それに対して、瞑想トレーニングでは、不安感、緊張感、成功・失敗への思いこみなどがあっても、そのすべてを「今という瞬間の事実」として受け止め、観察する姿勢で取り組む限り、失敗するということはありえない。
もちろん私も、この本をガイドに日々マインドフルネス瞑想法を実践している。
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