みなさま、こんにちわ。今日は岩田健太郎先生の著書の書評依頼を恐れ多くも頂きましたので、忖度なく色々書かせていただきます。
と言うのも、岩田先生も抗菌薬不適切使用の研究を以前やられていました。僕らも数年前から優秀な医学生さんにメンタリングしつつ去年PLOSONEで発表した感冒に対する不適切な抗菌薬の使用方法(だけでない)に日本の医師はやはり試験や再学習の必要性が重要だと思っておりました。
特にソロプラクティスで抗菌薬の使い方に少しでも不安を感じた先生方にはこちらはとても良い書籍と思います。
書評
自分が抗菌薬を処方する際に岩田健太郎先生に背後から診療を観察されている気がする・・本書を精読した後に現場に臨んだ時の率直な感想です。
本書は2011年に初版が出されて10年以上の月日を経てこのCOVID-19パンデミックの時期に大きく改定されて世に出ました。僕は初版も勿論読んでいました。ちょうど当時総合内科後期研修医であった自分の映像が脳内に浮かんで少しセンチになります。病棟診療で毎日ヘロヘロになりながら、無数にある類似の(無駄そうな)抗菌薬の中からどのようにベストな抗菌薬をシンプルにカッコよく選択するか?その重要な事を数ページ毎読んでは、次の日に初期研修医にまるで以前から体得していたかのようにイキって教えていたことを今ここに認めて懺悔します。
改定というよりは新しい書籍に生まれ変わっていますので、ここで論評したく思います。まず読みやすさと脳に染みる感じが桁違いです。僕の経験では、日夜奮闘する臨床家が教科書を読む際に重要とする事は、文字がズバッと脳内に入り込み、感情が揺さぶられ、マインドセットが変わる文章であるかどうかと思っています。つまり「心に刺さる」かどうかです。僕は大学のセンセーの文章が嫌いで、難しいことを頭良さそうに難しく書いているだけの(読み手の行動が変わらない)文章が如何に双方に無駄で、時代遅れか。ところがどっこい本書は枝葉を削ぎ落とし極めてシンプルに心に刺さる文章で一貫しています。また情報の見せ方もウマいです(何故か悔しい)。重要な我が国のサーベイランスや資料などはスマホからQRコードで読み取れるようにまで進化しています。極め付けはプライマリケアの現場で用いるべき・用いるべきでないリストなどが商品名で要所に出てきて脳に染みるのです、口調は優しいけれど容赦無くぶった斬る、そしてまたぶった斬る (笑)。全ては、臨床家と患者にとって有益であるために必要なことです。変な忖度や同調圧力にも屈しない本質的・合理的知性が随所に散見されるので、最高に楽しい読み物としての側面も持っています。
今の時代の為に新しくブラシュアアップされた研究内容も見逃せません。本邦でのESBLに対するセフメタゾールの立ち位置、大動脈瘤などの重大な副作用が多いため米国FDAがキノロンをなるべく用いないようと推奨していること、またまた神戸大学病院の第三世代経口セフェムの使用数がついに0になり、院内採用もやめたという論文は痛快です(上記を聞いたことがない人は是非お読み下さい)。
医師は患者さんのために正しいベストとおもわれる診療をしたいと心から奮闘している真面目な方が多いです。しかし時に、各専門分野とのぎりぎりの境界領域では、判断に対して最後の一押しの勇気を誰かにもらいたくなることもとても多いのです。感染症診療に限れば、それは自分達の診断への不安と、ベストな抗菌薬処方ではないでしょうか?つまり、これは本書の哲学的対話(岩田先生の独り言)に触れる最高の動機付けとなります。
ここで問います、“あなたは抗菌薬を必要としている患者にベストな抗菌薬を処方し、必要ではない患者に抗菌薬を使わないという根拠を持った判断ができますか?”
この問いに対して、Yes,勿論だぜ!という方は本書を読まずに次のステップへ進んで下さい。しかし、少しでも不安を感じた方は、ぜひ本書を手に取りましょう。本書の最大の長所【脳に染みる知的興奮】に遭遇するであろう事をお約束します。
冒頭、背後から岩田先生に観察されると書きましたが、ここまでお読みいただき意図がわかってくださったと思います。抗菌薬処方で困ったアノ日、他科と揉めそうなアノ時に(揉めないで下さいね)、僕らのバックにはアノ岩田健太郎がいる!そんな感覚を感じつつ自分の抗菌薬処方に間違いなく自信がもてるようになるでしょう。
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