緊急経済対策 石が混じっていないか
2013年1月12日「中日新聞」より転載
「強い経済」を掲げた安倍政権の第一歩となる緊急経済対策が決まった。“史上最大規模”をうたうが、官の肥大化につながるような予算や中長期的な財政健全化の道筋など不透明な部分もある。
安倍晋三首相は記者会見で「先行き懸念に対し、強力なてこ入れをするため思い切った規模にした」と強調した。事業規模約二十兆円、国の財政支出約十兆円は、リーマン・ショック後を除けば最大で「次元が違う経済対策」と説明している。
十五年以上も続いてきたデフレから早期に脱却するには「2%の物価目標」を目指す金融政策への転換を実現するとともに、財政出動がある程度大きな規模になるのは否定しない。国が支出を拡大して需要を創り出し、雇用や消費を下支えする考えは共有する。
しかし、厳しい財政事情を直視すれば、大胆といえど無駄や非効率な支出が許される余裕はない。にもかかわらず、大規模予算に乗じたかのような公共事業の拡大や、「官民ファンド」の創設がめじろ押しなのはどういうことか。
「企業再生支援機構の地域経済活性化支援機構への改組・機能拡充」「イノベーション強化のためのファンド創設」「良質な不動産形成のための官民ファンド創設」「農林漁業成長産業化ファンドの拡充」…成長戦略を官民ファンドが担うといわんばかりである。
これでは「官民連携」の名の下に、天下りなど官の利権拡大と、民業圧迫が起きかねない。企業でリスクを背負いきれない資源開発などの分野や民間投資の呼び水になるなら存在意義はある。
だが、公的資金で「ゾンビ企業」を延命させたり、企業再生支援機構による日本航空の救済例のように公正な競争環境をゆがめる弊害も大きい。省益優先ばかりで経営感覚も欠ける官僚任せでは「成長による富の創出」など看板倒れにならないか。
忘れてならないのは、一時的な財政拡張がやむを得ないとしても中長期的な財政規律は保たねばならないはずだ。安倍首相は「財政の重要な指標である基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を中期的に目指す」との姿勢を強調したが、その具体的な道筋は示していない。
景気対策や経済成長で税収が増えれば望ましいが、“玉石混交”の対策でシナリオ通りにいくのだろうか。「強い経済」の実現には、財政健全化と経済成長が欠かせない両輪である。
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