子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ベイビー・ドライバー」:ミュージック・ヴィデオの最新進化形?orミュージカル?

2017年10月01日 21時30分49秒 | 映画(新作レヴュー)
サイモン・ペッグとニック・フロストの二人と組んだ「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホット・ファズ」の2作で,あっという間に私のフェイバリット監督となったエドガー・ライトだが,前作の「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う」は久々の「トリオ」揃い踏みへの期待と高い世評に反して,展開の強引さとユーモアの不足に正直肩透かしを食らった思いだった。
こうしてライトのフィルモグラフィーを見直してみると,彼の作品に期待するのは社会通念と微妙にずれた登場人物の行動が巻き起こす笑いと,それを俯瞰で捉えたスタイリッシュとも言える視点のクールさなのだな,と改めて思い至る。その意味で待望の新作「ベイビー・ドライバー」は,ペッグ・フロスト・チームとのタッグではないものの,フライヤーに載っている主人公ベイビーを演じるアンセル・エルゴートのサングラス姿だけでも,クールさは保証されたも同然だったのだが…。

カー・チェイスと音楽の,より高度な次元での融合を目指した犯罪アクション。「ベイビー・ドライバー」を一言で表現するとこうなるのだろう。実際,公開前後には「あの『ラ・ラ・ランド』を超える!」という惹句を至る所で目にした。監督は特に(冒頭の)ジョン・スペンサー・エクスプロージョンの『ベルボトムズ』に拘ったということだが,話題となっているそのシーン以上に,それに続く長回しの導入部の躍動感にしびれた。
エルゴートの瑞々しい動きと音楽のシンクロは,何かとんでもないことが起こりそうな予感に満ちた画面を作り上げ,観客を銀行強盗の一味に引き入れてしまうという荒業に,見事に成功している。

物語自体はそんな映像の軽やかなリズムを削ぐような強引さが目立ち,クスッと笑えるような捻りも今回もまた味わうことは叶わなかった。リリー・ジェイムズには所々でコメディエンヌとしての資質も伺えただけに,それを活かすような工夫がなかったのも残念でならない。ジェイミー・フォックスをああいった形で退場させるのも,意表を突くとは言えるが,作品のトーンを考えた場合,クライマックスのドライブテクニックとは関係のない,かつ「これでもか」という描写と同様に,シナリオの練り込みが足りないという印象を受けた。
そんな瑕はあちこちに散見されるが,それでも「ベイビー・ドライバー」の持つエネルギーは,この夏最強と呼んで差し支えないだろう。かつてライアン・ゴズリングが本作に似たテイストを持つニコラス・ウィンディング=レフンの「ドライブ」でブレイクしたが,エルゴートを「二代目米ソウル・ドライバー」と呼んで,もて囃す動きがあったかどうかは定かではないが。
★★★★
(★★★★★が最高)


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