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国内赤字「サイゼリヤ」が中国で大黒字の“謎”、「安くない」のになぜ人気?

2024-07-23 | コラム
国内赤字「サイゼリヤ」が中国で大黒字の“謎”、「安くない」のになぜ人気?
7/23(火) 7:10配信 ビジネス+IT

いま中国で絶好調のサイゼリヤ、その人気の秘密とは?(Photo/aijiro/Shutterstock.com)

 7月11日、サイゼリヤの株価が急落した。下落の主な理由として「株主優待の廃止」が大きく報じられたが、さらにその背景にはコロナ禍以降続く国内事業の赤字がある。一方で、特筆すべきが中国事業の好調さだ。2023年の売上高は前年比44.6%も成長をした。実は、中国でのサイゼリヤ人気の理由は「安さ」ではない。中国の外食業界では決して激安ではないサイゼリヤに、ここまで人が集まる理由とは。

【詳細な図や写真】サイゼリヤのセグメント別のセグメント利益の推移。コロナ禍以前は日本とアジア(中国、台湾、香港、シンガポール)の両輪でけん引をしていたが、コロナ禍後はアジアの利益により、日本の損失をカバーしている状況だ(出典:サイゼリヤ決算短信)

日本では赤字、中国では大黒字のサイゼリヤ
 中国のサイゼリヤが絶好調だ。2023年の売上高は532.17億円となり、前年比で44.6%も成長している。2022年も357.93億円で前年比23.0%の成長となっている。

 店舗数は、2021年が360店舗、2023年が380店舗と増加ペースがゆっくりであるため、そのぶん来客数が増えていることになる。広州市、上海市、北京市の3都市を中心に展開をしているが、どの店舗も盛況で、週末には行列に並ばないと入ることができない。

 この中国事業の成長は、サイゼリヤという企業にとって救世主となった。日本事業はコロナ禍以降赤字状態になっており、そのぶんを中国事業の利益で補っている状況だ。

 原材料費などの高騰によりコストが上昇しているが、サイゼリヤはポリシーとして安易な値上げはしたくないため、利益幅が圧縮されている。中国でも一部を除いて値上げには慎重だが、それを上回る来客数があり、大きな利益が出ている。

中国の飲食市場では「激安ではない」価格帯
 なぜ、中国のサイゼリヤはここまで人気なのか。

 「安い」という理由だけでは説明しきれない。なぜなら、中国のサイゼリヤの客単価は45元(約980円)で、高くはないがインパクトのある激安ぶりではない。

 中国の現在の飲食市場は、客単価の高いところから倒産、閉店の波が始まっている。西洋レストランでは、客単価が500元(約1万1,000円)を超え、ミシュランの星を取るようなレストランが次々と閉店している。客単価200元のレストランでは、固定客がいるレストランは継続できているが、急拡大をしたチェーンや、料理の質が高くないところは閉店が続いている。


 マクドナルドやKFC(ケンタッキーフライドチキン)などの西洋ファストフードや、麺、鍋などの中華ファストフードは客単価が40元前後だったが、クーポン券などの配布により実質30元前後で食べられる環境を作り、人気となっている。

 多くの消費者アンケートで食事に出せる金額を尋ねると、30元(約650円)を切ることが消費者に重要な判断基準になっていることがはっきりとしている。その中で、45元のサイゼリヤは高価格帯なのだ。なぜ、激安とは言えないサイゼリヤにお客が集まるのか。

敬遠される要素がこんなに…さらに深まる「サイゼ成功の謎」
 もう1つ、大きな不思議がある。

 中国ではコロナ禍以降、レトルト食品が一気に普及した。レトルト、冷蔵、冷凍などの「預制菜」と呼ばれる食品が人気となった。

 ところが現在、飲食店がこの預制菜を使うことに対する拒否感が広がっている。サイゼリヤは専用工場で加工調理までし、レトルト状態にして店舗に配送、店舗では温めるなど簡単な調理で提供ができるようにして効率化を図っている。

 なぜ、他のレストランの預制菜は拒否をされているのに、サイゼリヤの預制菜は拒否感を持たれないのだろうか。

 さらには、処理水放出の影響はかなり薄れたとはいえ、サイゼリヤが日本企業であることは広く知られているし、サイゼリヤでは魚介類の食材も使っている。なぜ、多くの人はそれを気にしないのか。

 また、サイゼリヤは新しいテクノロジーに積極的だとは言えない。中国で2010年代半ばからスマートフォン決済やモバイルオーダーが導入され、フードデリバリーが一気に広がっても、サイゼリヤの対応は遅かった。それなのになぜお客は来てくれるのか。

 激安ではない、預制菜を使っている、スマホ決済に対応しない、モバイルオーダー、デリバリーにも対応しない。これでもし、サイゼリヤの中国事業の業績が悪かったら、メディアはサイゼリヤの施策のまずさを指摘することになるだろう。しかし、現実は逆で驚きの成長をしている。これはなぜなのか。

中国でのサイゼ人気を支える「意外な要素」
 中国の消費者は、レストランが預制菜を使うことには不信感を持っているが、サイゼリヤが預制菜を使うことは許容をしている。

 預制菜が避けられる大きな理由は、保存料や香料などの添加物だが、すべての添加物が健康に悪影響を与えると考えている人は少数派だ。多くの人は適量であれば問題ないと考え、できれば避けたほうがいい程度の感覚でいる。

 商品として預制菜を購入する場合は、包装に使われている食材や添加物が記載をされている。専門家が「特に避けたほうがいい」と指摘する添加物が記載されていないかどうかを確かめ、購入する。しかし、飲食店が預制菜を使った場合、多くの飲食店はどのような添加物を使っているかを説明しない。それどころか、預制菜を使っていること自体を伝えないところが大半だ。

 つまり、自分で買う場合は、添加物などを事前に確かめられるが、飲食店で出されてしまうと、どんな添加物が入っているかがわからない。それどころか、そんな不誠実なことをする飲食店では、その他の食材も何を使っているかわからないという不安がある。それが理由で避けられているのだ。


 一方、サイゼリヤは製造直販業を目指している。食材の生産、加工、配送、調理、提供までをすべて自社で行う垂直統合だ。食材はすべて自社生産であるため、産地などの情報を公開し、添加物などの情報も公開をしている。

 サイゼリヤでは料理に使っている食材を店舗で販売もしていて、そこには法律に基づいて、添加物などの情報が記載をされている。あたりまえの話だが、禁止されている添加物は使われてなく、使われているものもごく一般的なものばかりだ。

 この公開する姿勢と食材を自社生産するという誠実な姿勢が消費者に理解をされている。これにより、消費者の信頼を得ているのだ。

業界が注目、ユニクロも採用する仕組みを飲食版に応用
 この「製造直販」という考え方は、中国の外食業界からも注目されている。垂直統合をすると、コストを抑えるだけでなく、同時に品質も向上できるからだ。店舗もフランチャイズ制度は採用してなく、直営店を基本にしている。

 店舗で、スタッフが来店客を観察し、「酸味のあるトマトよりも甘味のあるトマトが好まれている」という感触を持ったとしたら、これを生産部門にフィードバックすることができる。生産農場では、サイゼリヤの店舗で好まれる食材開発を行う。

 これがもし、生産部門を持たず、バイヤーが農場を回って買い付けするとしたら、調達は高コストになる可能性がある。農家はサイゼリヤのためだけに生産をしているのではないので、サイゼリヤは複数の農家で小規模生産されている希少品種を集めなければならなくなるからだ。

 製造直販の考え方が優れているのは、「中間マージンが不要になりコストが下げられる」という単純な話ではなく、「品質を追求しようとすると指数関数的に膨らんでいくはずの調達コストが抑えられる」ことだ。食材は生産地から店舗へ、来店客の嗜好情報は店舗から生産地へという循環が生まれている。ここがサイゼリヤの最大の強みになっている。

 これは、ユニクロが採用しているSPA(Specialty Store Retailer of Private Label Apparel:プライベートアパレルの専門店小売業)の飲食版だ。サイゼリヤは飲食版SPAの仕組みを構築することで、低価格と品質を両立させ、食材を自社生産することで消費者の信頼を得ている。

中国経済が低迷すればするほど「サイゼが儲かる」状況に
 中国では、誘った人が会計を支払うという習慣がまだ残っている。支払う人は「どんどん注文して」と言い、全員が満足する様子を見ることが喜びになる。しかし、経済が低迷する中、高額の飲食店ではさすがに懐具合が心配になることもある。

 それがサイゼリヤであれば、気にすることなく「どんどん食べなさい」と言えるのだ。つまり、サイゼリヤは、食事として最安値なのではなく、社交を楽しめるレストランとして最安値になっているのだ。

 このため、サイゼリヤは客単価50元以上のレストランから、どんどん客を奪っていると考えられる。中国の経済が低迷をすればするほど、サイゼリヤにお客が集まる状況になっている。

 サイゼリヤがデリバリーに対応しないことも、同社は自分たちの価値をよく理解していることがうかがえる。

 サイゼリヤはレストランなので、家族や友人と楽しく食事をすること、複数の料理を組み合わせることにお客は価値を感じる。これがデリバリーで単品注文されて、自宅で食べられてしまうと、サイゼリヤの価値が半減をしてしまうのだ。

 実際、デリバリーが普及をし始めた2010年代半ばからは、サイゼリヤは伸び悩みを見せている。コロナ禍が終わり、ようやくレストランに行って食事ができるようになると、サイゼリヤの人気が爆発をした。

中国で繰り広げられる「サイゼ対ピザハット」の戦い
 実は、サイゼリヤのライバルはピザハットだ。

 ピザハットは、米国と日本では宅配ピザ事業を行っているが、中国では郊外型レストランとして展開をしている。客単価は76元とかなり高い。高級とまではいかないが、一般的にはデートなどで行く店になっている。

 ピザハットの事業そのものは成長をしているが、店舗数を毎年数百店舗規模で増やしているためで、単店売上に換算をすると、じりじりと落ちている状況だ。特にコロナ禍では打撃を受け、そこから回復ができない状況になっている。正確なことは専門家の分析を待つ必要があるが、サイゼリヤに客を奪われていると見るのが自然だ。

 サイゼリヤの単店売上をドル換算して比較してみると、2023年にはサイゼリヤが単店売上で上回った。客単価1/2のサイゼリヤが上回っているのだから、客数が2倍あることになる。

 この状況を打開するために、ピザハットは低価格新業態「ピザハットWOW」の展開を始めた。

 メニュー内容、価格などもサイゼリヤを意識したもので、広州市金沙洲のショッピングモール「永旺夢楽城」に1号店を出店した。広州市はサイゼリヤの店舗数が多く、ホームグラウンドとも言える場所で、ピザハットは対決姿勢を隠さない。店内の内装は、ピザハットそのままでサイゼリヤに比べて高級感がある。

 つまり、同じ価格でちょっと豪華な体験ができる点で対抗しようとしている。日本生まれのイタリア料理と米国生まれのイタリア料理が中国で競い合うという面白い状況が生まれている。

 中国の飲食業は、客単価の高いところから倒産、閉店ドミノ倒しが始まっている。生き残っていくのは、コストパフォーマンスに優れ、来店客が安心できる情報提供を行う飲食店だ。

 この飲食店の基本とも言えることを地道に続けてきたサイゼリヤが中国で大きな成果を挙げることになった。苦しい時は、初心、原点、基本に立ち返ることが正しいことをサイゼリヤは証明してくれた。執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

#国内赤字「サイゼリヤ」が中国で大黒字の“謎”


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