ヒップホップと他の音楽の違いを上げていけばいくらでもあるけれど、そのひとつに「敗者復活戦」的な内容を歌うというという点もあると思う。
いや、ブルーズだってロックだって敗者の歌を歌うじゃないかと思うけれど、ヒップホップほど生々しく自分が敗けた様、そこから巻き返そうという様を生々しく歌というとヒップホップの楽曲しか思い浮かばない。
敗北ということでなく勝ち上がることについてもそういえるかもしれない。
つまり、ヒップホップはいまの他のどんな音楽より自らの姿を生々しくさらけ出すものなのかもしれない。
だから、あれほどまでに”Keep It Real!”と声高に謳うのだろう。
『Will Never Die』でのYTR★は生々しい。まさしくRaw Like SUSHIだ。
2021年のリリースであることを刻印したかのようなマスク姿のアー写。
「TAKE YOU AND ME BACK TODAY」で自分に言い聞かせる様な語りから聴き手に言葉の視線が変わってくる瞬間。
「ON FIRE MORE LOUD ACTION」の最終ヴァースに入る前のフック終わりで差し込まれる「くそぉ…」という咆哮。
そして何よりラップする声。
全てが生々しい。
O.N.O.の組み立てるビートもマシーンに命を吹き込んで生々しいサウンドをならす(Machine Live!)
おそらくBIZ-BosstonioことBoss Tha Mcはこの『笑っていいとも!』をみてイラついただろう(「SWEET LITTLE DIS」を発表するのはこの二年後だ)。
この頃のYTRはバラエティー番組でも存在感を示し始めていたし、あのままいけば”日本のウィル・スミス”になっていったのに違いない。
ここでは道化を演じるYTR★だけれど、改めてみると『いいとも』の場でもコール&レスポンスなどヒップホップとは何なのか、ヒップホップが社会を、観ているあなたをどう変えていくのかを伝えていこうとしているのが分かる。
2000年のYTR★にしてみればバラエティー番組というステージに立つのが、そのステージから声を届けることが、その教えを伝えるのに最も効果的な場所だと判断したのだろう。
おそらく「あの日の雨の中にいた連中」の多くは子の2000年頃のYTR★を変わってしまったと思ったはずだ。そして、自分もそのひとり。
ソロになってからの『THE SOUNDTRACK '96 』(1996)、『THE★GRAFFITI ROCK '98 』(1998)、『THE PROFESSIONAL ENTERTAINER 』(1999)は日本語ラップのガイド本でもクラシックとして扱われるだろうが、『XTRM』(2002)以降のアルバムについて振り返れることは正直少ない。
YTR★は変わってしまったのか?
変わってしまった部分もあるのかもしれない、人間だもの。
けれど『Will Never Die』を聴くと変わってしまったのだとしても、元に戻ることが出来る。……いや、戻れたのかはまだわからないけれど、変わりつづけながらも核となるものがあれば次元は違えど元と同じ座標に戻ってくるものなのだろう。
先の『いいとも』の動画から続けてこのインタビューをみると、YTR★の表情・顔つきも含めて歳をとるということはいいものだな、人生は案外いいモノなのかもなと思えてくる。
……とここまで書いてから「HIP HOP DNA」のインタビューをみた。
特に後編は重く真摯な言葉が続くけれど、『自分自身への依存』という言葉がずしーんと響いた。
その思いを言語化するのにどれほどの苦悩を抱きしめたのだろう。
思い出したのはECD『Big Youth』の頃に雑誌に掲載されたYTRとECDの対談記事でのやりとり。
正確には覚えてないけれどYou The Rockが竹前裕(本名)を乗っ取っていっているという意味の言葉。
You The Rock★になれなくなった竹前裕がもう一度You The Rock★担っていく過程が『Will Never Die』といえるのかもしれない……とか言っとく!
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