every word is just a cliche

聴いた音とか観た映画についての雑文です。
全部決まりきった常套句。

仮面をはずせないで|『ダフト・パンク: テクノ・ファンクのプリンスたち』

2013-12-20 | Books
う~ん。
「テクノの最候補デュオはいかに音楽の未来を切り拓いてきたのか。計り知れない魅力とそのデビュー以降の軌跡に迫る決定版」と帯にはあるけど、これは"偽装表示"だと思う。
まったくDAFT PUNK(ダフト・パンク)の仮面をはずせないでいる(抑もその気もないのかもだけれど)。




話の中心は「アラウンド・ザ・ワールド」という初期のヒット曲だ。この曲は1stアルバム『ホームワーク』からの1stカットだけれど、このアルバムの発売日が"フレンチ・タッチ"が生まれた日であるというのが核となって、"フレンチ・タッチ"とは何か? "フレンチ・タッチ"がフランスがもたらした影響について(少々)語られている。

因みに"フレンチ・タッチ"とは"フィルタ・ハウス"とも呼ばれ、70年代ディスコのサンプリングにフィルターをかけたシカゴ・ハウスの影響下に生まれた音楽で、ボブ・サンクラー、エティエンヌ・ドゥ・クレシー、スターダストなどが代表的なプロデューサでっす。

帯にあるようなダフト・パンクの軌跡にはまったく迫っていないと思う。『ディスカヴァリー』も『ヒューマン・アフター・オール』も駆け足で紹介された程度だし、「ワン・モア・タイム」でさえ軽く流されている(2008年に上梓された本の翻訳なので『ランダム・アクセス・メモリー』に対する記述がないのは仕方がないだろう)。松本零士とのコラボレーションによる『ディスカヴァリー』でのMVなど重要な事項だと思うのだが、訳者あとがきで触れられている程度の有様だ。


Daft Punk - Around The World


著者は「ティチャーズ」(「アラウンド・ザ・ワールド」のカップリング曲)でシャウト・アウトされているポール・ジョンソンやリル・ルイス、DJファンクといったシカゴ・ハウスのプロデューサーの名前をよく知らないのではないか? 少なくともそういった読者だけを想定して書かれている気がしてならない。なにせミニマルといった言葉を用いるのにテリー・ライリーやスティーヴ・ライヒの名前だけを持ち出すくらいなのだ。言うまでもなくダフト・パンクについての文章であれば、ジェフ・ミルズや前述のシカゴ・ハウスのプロデューサーの名前を出すべきなのに。

ダフト・パンクの仮面をはずすような人物にフォーカスした内容でもなければ、軌跡をたどるといった背景を解きほぐした文章にもなっていない。殆どが「アラウンド・ザ・ワールド」を巡る状況についての文章だ。これではタイトルならびに帯文は"偽装表示"ではないか? WAX POETICSのインタビューの方がよっぽどダフト・パンクの軌跡に迫っていたと思う(実はこちらは軽く立ち読みした程度なのだけれど……)。


訳者あとがきには(僅かながら)1997年のフランスの状況が語られている。1998年のワールドカップ開催を目前に控え、右傾化するフランス社会で移民や経済的に恵まれない若者(多くは「郊外」にすむ)が極右勢力と対決の姿勢を示し始めた年だった。フランス語によるラップが完成されたのが1995年(映画『憎しみ』が公開された年)。その前年の1994年にはフランスにおけるテクノのゴッドファザー=ロラン・ガルニエの1stアルバム『ショット・イン・ザ・ダーク』がリリースされている。

Laurent Garnier - Astral Dreams Speakers Mix


ダフト・パンクのヘルメットを脱がすことができなかったのであれば、せめてそういった背景について語って欲しかった。

なおフランスでの極右勢力との「対決」は本書翻訳者による下記の本が詳しい(穿った読み方かもしれないけれど翻訳者はそういう背景を一番伝えたかったのではないだろうか?)。暴動直後に書かれたので時事的過ぎるけれど、改めて読む価値はあると思います。




"フレンチ・タッチ"前夜についてはロラン・ガルニエの自伝が詳しい。というかテクノが一番熱かった時代の熱気とロランの情熱は必読であることですのよ。



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