主任の先生は親身に話を聞いてくれた。
「もちろん辞めることも選択肢のひとつだとは思います。でも、お母さんの負担を考えると私達はもう少し力になりたいと思っています。」
私は悩んでいた。
まだ小さい我が子を、本来ならお家でお母さんと一緒にいられる大切な時期を、無理やりにミルクを飲ませてまで頑張らせるのか。頑張るのは私達大人の方じゃないのか。こんな小さい子を頑張らせる必要があるのか。
でも…これから夏が来て、暑い厨房で不自由にいることがいくらお母さんと一緒にいるとはいえ、本当にそれが幸せなのか…
だったら保育園でプロの先生やお友達と過ごす方がよっぽど有意義な時間なんじゃないか。
話していたら涙が出てきた。
気付いたら先生も一緒に泣いてくれていた。
「お母さん、朝から晩まで息子さんをおんぶしてお仕事をしていると思うと私達は心が痛みます。少しでもいいから、頼ってみてもいいんじゃないですか。私達も極力、途中のお迎えがないように努力しますから。」
私の実家も旦那の実家も同じ県内だが車で2時間ほどかかるし、全然知らない土地に引っ越してきた私達には友達も知り合いもいない。
そんな状況でこんな優しい言葉をかけてくれる他人がいるなんて、本当に幸せなことだと思った。
「まずは5月。お散歩に行く気持ちで預けてみてください。だめならお休みでもいいです。せっかく籍があるんだからちょっとのつもりで使ってみたらどうですか?やっぱり無理だと思えばいつでも辞められますから。」
胸がすっとするようだった。
結局その日は何も保育園の準備もしていないのに、
「いいお天気だからこのままお預かりしますよ、お散歩行こうねっ。」
と、お願いしてしまうことになった。
あぁ、息子は優しい出会いに恵まれたんだな。
そして現在。
ある日突然哺乳瓶からごくごくミルクを飲みだした息子は、初期の離乳食もペロリとたいらげご満悦のようだ。
最近では一度も泣かずにいられるようになったらしい。
あの時あのまま諦めなくて良かった。
きっとそのうち、保育園から帰りたくない!なんて言われるときが来るんだろうな。
今、隣で健やかな寝息をたてる息子を見て嬉しいような寂しいような複雑な気持ち。