15 日本が太平洋戦争にまさに突入せんとしていたころ、ユダヤ人科学者シェーンハイマーはナチス・ドイツから逃れて米国に亡命した。英語はあまり得意ではなかったが、どうにかニューヨークのコロンビア大学に研究者としての職を得た。
16 彼は、当時ちょうど手に入れることができたアイソトープ(同位体)を使って、アミノ酸に標識をつけた。そして、これをマウスに三日間、食べさせてみた。アイソトープ標識は分子の行方をトレースするのに好都合な目印となるのである。
17 アミノ酸はマウスの体内で燃やされてエネルギーとなり、燃えカスは呼気や尿となって速やかに排泄されるだろうと彼は予想した。結果は〈 予想を鮮やかに裏切っていた 〉。
18 〈 標識アミノ酸 〉は瞬く間にマウスの全身に散らばり、その半分以上が、脳、筋肉、消化管、肝臓、膵臓、脾臓、血液などありとあらゆる臓器や組織を構成するタンパク質の一部となっていたのである。そして、三日の間、マウスの体重は増えていなかった。
19 〈 これはいったい何を意味しているのか 〉。マウスの身体を構成していたタンパク質は、三日間のうちに、食事由来のアミノ酸に置き換えられ、その分、身体を構成していたタンパク質は捨てられたということである。
20 〈 標識アミノ酸 〉は、ちょうどインクを川に垂らしたように、「流れ」の存在とその速さを目に見えるものにしてくれたのである。つまり、私たちの生命を構成している分子は、プラモデルのような静的なパーツではなく、例外なく絶え間ない分解と再構成のダイナミズムの中にあるという画期的な大発見がこのときなされたのだった。
21 全く比喩ではなく、生命は行く川のごとく流れの中にあり、私たちが〈 食べ続けなければならない 〉理由は、この流れを止めないためだったのだ。そして、さらに重要なのは、この分子の流れが、流れながらも全体として秩序を維持するため、相互に関係性を保っているということだった。
22 個体は、感覚としては外界と隔てられた実体として存在するように思える。しかし、ミクロのレベルでは、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかないのである。
Q14 「予想を鮮やかに裏切っていた」とあるが、どう「予想」していたのか。50字程度で抜き出せ。
A14 アミノ酸はマウスの体内で燃やされてエネルギーとなり、燃えカスは 呼気や尿となって速やかに排泄されるだろう
Q15 「標識アミノ酸」のはたらきとは、どのようなものであったか。26字で抜き出せ。
A15 「流れ」の存在とその速さを目に見えるものにしてくれた
「これはいったい何を意味しているのか」について、
Q16「これ」が指す実験結果とはどのようなものだったのか、60字以内で説明せよ。
A16 標識アミノ酸がマウスの全身に散らばり、あらゆる組織を構成するタンパク質の一部になりながら、体重は全く増えなかった。
Q17「何を意味しているのか」を具体的に明らかにしている箇所を154頁から40字以内で抜き出し答えよ。
A17 身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けている
Q18 この実験の結果、生物の個体とはどのようなものであると筆者は言うのか。30字以内で抜き出せ。
A18 たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」
Q19 「私たちが食べ続けなければならない」のは、なぜか。
A19 生命を保つには、私たちの身体を形づくる分子の流れを止めてはいけないため。
〈 シェーンハイマーの実験と発見 〉
標識アミノ酸をマウスに食べさせる → 分子の行方をトレース
予想 … アミノ酸は燃やされ、燃えカスが排泄される
↑
↓
結果 … 標識アミノ酸がマウスの全身に拡がり、臓器・組織の一部になる
マウスの体重は増えない(=もとあった分子が排出された)
生命を構成する分子
……静的なパーツ
↑ ではなく
↓
絶え間ない分解と再構成のダイナミズムの中にある
個体
……外界と隔てられた実体
↑ ではなく
↓
たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」
生命……分子の流れの中にある・分子の流れ……相互に関係性を保つ
↓
食べる=分子を流れさせる=生命を保つ
16 彼は、当時ちょうど手に入れることができたアイソトープ(同位体)を使って、アミノ酸に標識をつけた。そして、これをマウスに三日間、食べさせてみた。アイソトープ標識は分子の行方をトレースするのに好都合な目印となるのである。
17 アミノ酸はマウスの体内で燃やされてエネルギーとなり、燃えカスは呼気や尿となって速やかに排泄されるだろうと彼は予想した。結果は〈 予想を鮮やかに裏切っていた 〉。
18 〈 標識アミノ酸 〉は瞬く間にマウスの全身に散らばり、その半分以上が、脳、筋肉、消化管、肝臓、膵臓、脾臓、血液などありとあらゆる臓器や組織を構成するタンパク質の一部となっていたのである。そして、三日の間、マウスの体重は増えていなかった。
19 〈 これはいったい何を意味しているのか 〉。マウスの身体を構成していたタンパク質は、三日間のうちに、食事由来のアミノ酸に置き換えられ、その分、身体を構成していたタンパク質は捨てられたということである。
20 〈 標識アミノ酸 〉は、ちょうどインクを川に垂らしたように、「流れ」の存在とその速さを目に見えるものにしてくれたのである。つまり、私たちの生命を構成している分子は、プラモデルのような静的なパーツではなく、例外なく絶え間ない分解と再構成のダイナミズムの中にあるという画期的な大発見がこのときなされたのだった。
21 全く比喩ではなく、生命は行く川のごとく流れの中にあり、私たちが〈 食べ続けなければならない 〉理由は、この流れを止めないためだったのだ。そして、さらに重要なのは、この分子の流れが、流れながらも全体として秩序を維持するため、相互に関係性を保っているということだった。
22 個体は、感覚としては外界と隔てられた実体として存在するように思える。しかし、ミクロのレベルでは、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかないのである。
Q14 「予想を鮮やかに裏切っていた」とあるが、どう「予想」していたのか。50字程度で抜き出せ。
A14 アミノ酸はマウスの体内で燃やされてエネルギーとなり、燃えカスは 呼気や尿となって速やかに排泄されるだろう
Q15 「標識アミノ酸」のはたらきとは、どのようなものであったか。26字で抜き出せ。
A15 「流れ」の存在とその速さを目に見えるものにしてくれた
「これはいったい何を意味しているのか」について、
Q16「これ」が指す実験結果とはどのようなものだったのか、60字以内で説明せよ。
A16 標識アミノ酸がマウスの全身に散らばり、あらゆる組織を構成するタンパク質の一部になりながら、体重は全く増えなかった。
Q17「何を意味しているのか」を具体的に明らかにしている箇所を154頁から40字以内で抜き出し答えよ。
A17 身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けている
Q18 この実験の結果、生物の個体とはどのようなものであると筆者は言うのか。30字以内で抜き出せ。
A18 たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」
Q19 「私たちが食べ続けなければならない」のは、なぜか。
A19 生命を保つには、私たちの身体を形づくる分子の流れを止めてはいけないため。
〈 シェーンハイマーの実験と発見 〉
標識アミノ酸をマウスに食べさせる → 分子の行方をトレース
予想 … アミノ酸は燃やされ、燃えカスが排泄される
↑
↓
結果 … 標識アミノ酸がマウスの全身に拡がり、臓器・組織の一部になる
マウスの体重は増えない(=もとあった分子が排出された)
生命を構成する分子
……静的なパーツ
↑ ではなく
↓
絶え間ない分解と再構成のダイナミズムの中にある
個体
……外界と隔てられた実体
↑ ではなく
↓
たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」
生命……分子の流れの中にある・分子の流れ……相互に関係性を保つ
↓
食べる=分子を流れさせる=生命を保つ