水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

BIG BOSS

2021年12月07日 | 学年だよりなど
1学年だより「BIG BOSS」


 期末試験おつかれさまでした。280回ぐらい言ってるが、試験は終わったときがスタートだ。
 頭ではわかってるはずなので、あとはやるか、やらないか。
 今やっているレベルの勉強は、やるべきことさえやれば、できるようになる。
 やらなければ、できない。これほどシンプルな事実があるだろうか。
 たとえば、定期考査に出るレベルの単語を暗記しないまま、「英語が苦手で」などというのは、おかしい。すると「暗記が苦手」と言う人もいるが、たとえば家族の顔と名前をみなさんは忘れるだろうか。暗記に苦手も得意もなく、何百回も見ていれば自然に覚える機能を、脳はもっている
 「勉強のやり方がわからない」という人の多くは、「やり方」ではなく、「やる自分」になれていないのが問題の本質だ。実際「やり方」を聞きに来た人に丁寧に教えても、あまりやらない人が相当いた。気がつくと他の先生のところへ「もっといいやり方」を聞きにいっていた。
 平常授業のない今の時期、冬休み明けまでのおよそ一ヶ月は、ほんとうに個人差が開く。
 まずは、やるべきことを紙に書き出して、一つずつつぶしていこう。


 日本ハムの新庄剛監督がSNSに発信している言葉がささりすぎるので紹介しておきたい。

「自由人になりたいなら 日々ストイックになれ」

「弱い犬ほど良く吠えるって言うけど、怯えて何もしないよりかはまし」

「努力をしてない人間ほど すぐ人のせいにし 不貞腐れ自分から逃げる」

「夢を掴む為にはまず周りに発信すること 人を笑顔にしたいなら自分が笑顔でいること
 感謝されるには自分から感謝すること その場を楽しませるには、まず自分が楽しむこと
 失敗しないしない為には、失敗しない準備をしておく」


 監督は、「シーズンが始まったら、選手全員を必ず一回は1軍の試合に出す」と公言している。
 まちがいなく果たされる約束だろう。2軍の試合で今ひとつ結果が出せてなくても、1軍の大観衆の中、突如ブレイクする選手がいるかもしれない。
 「プロになった時点でみんな力はもっているのだから、あとは本人次第、メンタル次第、だからコーチの言うことも聞かなくていい」とも、先日語っていた。
 イチロー選手が、入団1年目にフォームを注意されて芽が出ず、新監督(仰木彬監督)に自由にやっていいと言われた2年目、安打数日本記録で首位打者となったことも思い出される。
 みなさんは、まちがいなく自分でやりたいことをやれるだけやっていい環境にいる。
 やるのもやらないのも、自分次第だ。
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180秒の熱量(4)

2021年12月04日 | 学年だよりなど
1学年だより「180秒の熱量(4)」


 東洋太平洋14位のイ・ウンチャン選手に判定で勝って、ランキング入りすることができた。
 タイトル挑戦の権利を手に入れたとはいえ、チャンピオンが、無名の14位と戦うメリットは普通ない。ジムの会長は、下の階級のチャンピオンにも対戦を申し込んだが、話はまとまらなかった。
 世界ランキング入りすることも現役続行可能の条件になるが、ミドル級の世界ランカーとなれば、住む世界がちがう、競技の性質がちがうと言われるほどレベルが異なっている。
 しかし、世界10位との対戦が実現する。WBO世界10位、レス・シェリントン選手との試合がオーストラリアで実現した。

~ もう、世界10位は試合を終わらせていい時間だった。実際そのつもりだったと思う。しかし、シェリントンが何度ラッシュを仕掛けても、米澤の心が折れない。空振りでも、とんでもない方向でも、なにがしかのパンチを打ち返してくる。少しでも攻撃の手を緩めれば、逆に米澤は突進してくる。クリンチしてしまえば、なんのことはないのだが、何度でも詰め寄り、力ない右スマッシュと左スイングを振り回す。当たらないのにやめようとしない。そのたびに強烈なジャブをもらう。観客は笑っている。確かにその姿は無様と言えば無様だった。でもそれは、36歳11ヶ月にして、まだボクシングを続けている、米澤の人生そのものにも見えた。~


 打たれても打たれても、前進する。地道にボディを狙う。相手からは不気味にさえ思われる徹底した「作戦」は、予想外の善戦をもたらした。しかし、「そこで戦いたいと願う人間」は「そこで戦うために生まれきた人間」には叶わなかった。


~「そりゃ負ければ、悔しいですよ。でも、勝った時はたまたまだと思ってます。試合は勝ち負けじゃない、やってきたこと全部出せればいいだけだとずっと思ってました。」
「だって、全部出せれば、出して負けたんなら、やってきたことが間違っていたわけだから、修正して、また頑張りましょうなんですよ。やってきたことを出せずに勝っても意味がないんですよ。たまたまだから、本当に。例えば、試合までずーっとワンツーの練習をしてきたのに、なんとなくフック打って勝っちゃったら、僕にとってその試合に費やした二ヶ月は意味がなかったになっちゃうんですよ。」 (山本草介『180秒の熱量』双葉社) ~
 

 「自分は心が弱い」のだと米澤は言う。勝利だけを求めると、負けたらどうしようって怖くなってしまう。そこから逃げるために、今の自分より少しでも強い自分になろうとしたのだった。
 すると敵は相手ではなく自分になる。「結果」だけが、成功か失敗かの判断基準ではない。
 むしろ、失敗の中身が自分を成長させる。何かにとことん取り組んだ経験は、それ自体の結果を手にできなくても、別の何かへの挑戦権をもたらすのだ。
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180秒の熱量(3)

2021年12月01日 | 学年だよりなど
1学年だより「180秒の熱量(3)」


 ミドル級は、世界レベルでは圧倒的に選手層が厚い、よって必然的にレベルが高く人気のある階級だ。だから現WBA王者の村田諒太選手は、とんでもないスーパースターであり、年末に予定されているIBF王者ゴロフキンとの統一戦のファイトマネーは、数億円と言われている。


~ 8回最終ラウンド。米澤に何が起きていたのだろう。本人に聞いても、《もうこれで最後だと思って。それだけです》と言うが、僕は腑に落ちなかった。米澤には申し訳ないが、僕は最後の3分間、リングサイドでカメラを回しながら、もう勝ち負けのことはどうでもよくなっていた。ファインダー越しに見える米澤の鬼気迫る顔が、打たれても、打たれても前に出続けるその姿が、ただ圧倒的だった。 ~


 ふらふらになった足元。相手のパンチが打ち込まれるたびに、傷口と鼻から血が噴き出し、顔全体が赤茶けてくる。それでも前に出る米澤。もしかしたら……という空気さえ漂いはじめる。
 最終ラウンド終了のゴングが鳴った。判定は? 「勝者、赤コーナー福山!」
 会場は一気に静まりかえった。しかし、観客は敗者を万雷の拍手で送り出した。タイトル戦でもなんでもない試合では異例にことだった。
 ジムの会長も、トレーナーも、この試合で引退させたくないという気持ちになっていた。
 「仕事、休めたらなあ……。このまま続けても、同じこと繰り返したら意味ないよ」
 しかし、現実問題として、収入がなくなれば、ジムの費用も、接骨院に通うお金も払えない。
 米澤が思わずもらした言葉に、「仕事、やめちゃえば?」と同棲しているみな子さんが言う。
 あと半年くらいなら、あたしが食べさせてあげると。
 現役続行を決心した米澤だが、対戦相手がいるかどうも問題だった。会長は、もてる人脈を駆使し、執念で相手を見つけた。東洋太平洋ミドル級14位のイ・ウンチャン選手。
 タイのバンコクで行われたこの試合も、凄絶なものになった。


~ 6ラウンド。止まらない出血も痺れた足も、何もかも引きずりながら、米澤は突進を止めなかった。愚直に前へ。そしてボデイ。ひたすらボディ、ボディ、ボディ。
 決して美しいボクシングではない。見ていて痛快なボクシングでもない。わかりにくくて、地味。けれどそれが米澤だった。繰り返すが、このボクサーには何かに秀でたものがない。巧みな技術もスピードも、優れた反射神経もない。おまけに眼鏡をかけなければ仕事ができないほど、視力も悪い。さらには劣勢を一発でひっくり返すパンチ力もない。そんな米澤に優れたところをあえて探すとすれば、自分自身の才能のなさを心の底まで自覚していたという点ではないだろうか。だからここまで、ひたむきにボディが打てる。 (山本草介『180秒の熱量』双葉社) ~


 米澤選手に惹かれるのは、「才能のない」人間の徹底した「ひたむきさ」があるからだ。
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