ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ハムレット Q 1」

2024-06-11 23:40:18 | 芝居
5月23日パルコ劇場で、ウィリアム・シェイクスピア作「ハムレット Q 1」を見た(翻訳:松岡和子、演出:森新太郎)。






「ハムレット」には Q 1・ Q 2 ・ F 1と三種類の原本があり、現代では Q 1は Q 2 の原型で、 Q 2 は草稿版、
F 1が当時の劇団保管演出台本で、Q 2を参考に制作されたとも言われている。
今回上演する Q 1は、最長の Q 2と比べ約半分の行数で構成されており、そのぶん畳みかけるように展開される疾走感のあるドラマとなっている(チラシより)。

ネタバレあります!注意!

デンマークの王子ハムレットはドイツ留学中、父王の急死の知らせを聞き、急きょ帰国。
だが母ガートルードが、父の弟である叔父クローディアスと再婚し、その叔父が国王となったため、激しいショックを受け、鬱状態に陥る。
その彼の前に、父の亡霊が現れ、自分は病死とされているが、実は弟に殺された、と告げ、復讐せよと命じる・・・。

吉田羊がタイトルロールをやるというので、客席はもちろん満席。
チラシの文を読むと普通の「ハムレット」より短いようだが、意外と長いセリフが多い。
特にマーセラスのセリフが長い。ホレイショーも。亡霊がなかなか出て来ない。
亡霊は「甲冑姿」だというが、黒く光る素材の雨がっぱを長くしたようなものを着ている。
ダースベイダー風?

クローディアス役の吉田栄作とガートルード役の広岡由里子が、思った通りミスキャスト。
吉田のクローディアスはまったく悪党に見えない。
相変わらずスリムで足が長くてカッコよく、顔立ちも整っていて誠実そうで、女性にモテモテな感じ。
兄王と比較されてさんざんけなされたり、義姉に横恋慕して兄を毒殺するような奴には、とても見えない。
広岡のガートルードは、クローディアスを兄殺しに駆り立てるような華に欠ける。
どちらもまるで説得力がない。
なぜこういう配役にしたのか理解に苦しむ。

ポローニアス(佐藤誓)はオフィーリア(飯豊まりえ)に、ハムレットからの恋文を音読させる。
ガートルードはそれを手に取って、自分でも読む。

舞台奥に「回廊」らしきものがあり、そこをハムレットが歩く。
オフィーリアは彼に、もらった贈り物を返そうとするが、それが白い小さなウサギのぬいぐるみ。
これは奇抜だが、ハムレットはそれを腹話術のように動かしながら、「こんなものをやった覚えはない」などと言う。
その後も同様に、異様に高い声でセリフを続ける。狂気を装う時の声ということか。
ローゼンクランツたちがやって来ると、ハムレットは彼らの前でも、その高い声で、わざとらしく明るく振る舞う。
旅回りの役者4人が来る。全員女性。
座長がヘキュバのシーンを演じた後、ハムレットは一人になると、「俺はなんて・・・」「あの女にとってヘキュバは何だ・・・」
座長が女性なので、「あの女」と言い換えている。
<休憩>
劇中劇の前に、ポローニアスが王と妃に提案する。
 芝居の後、すぐに私がハムレット様に言います、母上のお妃様があなたにお会いしたいと言っておられます、と。
 そして親子水入らずの場で、ハムレット様はきっと心の内を話すことでしょう、それを私はカーテンの陰に隠れて聞いています。

ハムレットが旅役者たちに向かって演劇論を語る。
と、すぐに王たちがそこに来る。
下手側に簡易な幕が運ばれる。
ドラが鳴ると、幕が開き、金色の衣の王と銀色の衣の妃が現れる。
黙劇で、妃が去り、王が眠ると、ド派手な格好のピエロが現れ、王の耳に毒を流し込む。
 ➡ 王が倒れ、妃が嘆く ➡ 妃とピエロが並ぶ。ここで見物していたクローディアス王の周りの人々が笑う。
本番が始まる。王役の声がいい。
妃役は驚いたことに歌い出す。
この後、彼女のセリフはずっと歌。
王の甥が王を殺すシーンで、クローディアスが立ち上がり、「あかりだ、寝る」。
皆、芝居の装置を片づけて、散る。
ハムレットとホレイショーは王の反応を確認し合う。

王はよろよろと登場し、神に祈るが、その内容は、よく知られたものとはだいぶ違う。
彼は「不義密通」と口にする!
つまり、彼とガートルードは先王が生きていた頃から密かに関係していたということだ。
亡き兄の未亡人と結婚するのが近親相姦になるかどうかは微妙なところで、旧約聖書ではレビラート婚といって、むしろ推奨されていた。
だが彼は近親相姦とは言わず、不義密通と言うのだ。
そして作者は後に、このセリフをカットした。
これは重要だ。

クローゼットの場で、ハムレットは「殺人」という言葉を口にする。
ガートルードは驚き、自分は何も知らない、と言う。
ハムレットは「復讐する」と口にする!
ガートルードは止めない!
それどころか、「そうなるように」とか言う!
王の機嫌を取っておく、とまで言う。
これには驚いた。

ハムレットはポローニアスの遺体を引きずりながら去る。
王が来てガートルードの報告を聞くと、王は驚くが、ハムレットをイングランドに送るよう既に手配してある、と言う(早い!)。
ハムレットは連れて来られると、イングランド行きの話に、すぐ「わかりました」と答える。
その後、クローディアスは一人になると、「書面にハムレットの首をはねよ、と書いておいた。
あいつに生きていてもらうと困る。あれがいなくなれば、この国も私も安泰だ」と独白!!
なるほど。最初に書かれていたのはこういうことだったのか。
その後、作者はこのシーンをカットしたのか。
実に面白い。

ホレイショーは王妃ガートルードに会うと、無事帰国したハムレットからの手紙を渡して説明する。
ガートルードは夫がハムレットを殺させようとしたことを知る。
「復讐に協力して下さい」とホレイショーに言われて「わかりました」と答える!
つまり、ガ―ティーはここではハムレットたちの共謀に加担する!

クローディアスとガートルードがいるところにレアティーズが一人で乱入。
王と妃は、彼を何とかなだめる。
この時、王は早くも決闘のことを話す。
使う剣のこと、ワインに毒を入れることも。
そこにオフィーリアが来る。
赤い小さなアイリッシュハープを抱えて爪弾きながら歌う。
一人一人に花を手渡す。

ガートルードがオフィーリアの死を報告する。

墓掘りたちの場。
ポローニアス役の佐藤誓が墓掘り1も演じる。   
頭蓋骨を3つも掘り出して投げる。

ハムレットとホレイショーのところに決闘の申し出。
そしてその場に王たちが来て、決闘がすぐに始まる。
そこに家臣たちがいないのが物足りない。
いるのは審判役のオズワルドとホレイショーのみ。
ガートルードが毒入りの酒を飲んで死ぬと、王は彼女のそばに来て、四角いレンガみたいなものの上に座り込んで彼女の顔をじっと見つめる。
レアティーズは負け続け、途中で剣が入れ替わり、自分の剣で刺された後、後ろを向いたハムレットを刺す。
彼は倒れながらハムレットに話しかけ、王と仕組んだ企みを明かし、「私は君を許す」と言う。
ハムレット「私も君を許す」。
ハムレットが王に近づいて「極悪非道の王・・」と呼びかけると、王は立ち上がってハムレットに近づく。
ハムレットが王の体に刀を当て、突き刺すと、王はよろけながら奥に歩いてゆき、ドッと後ろに倒れる。
その倒れっぷりがすごい。
客席からも驚きの声が上がる。
ハムレットは力無く座るが、ホレイショーが杯に残った毒入りワインを飲もうとすると、離れたところから「頼む!・・・」。
ホレイショーは杯を落とす。
ハムレットが後ろに倒れる時、ホレイショーが支える。
「おやすみなさい、やさしい殿下、・・・」という彼のセリフはない。
フォーティンブラスたちが来る。幕。

~~~ ~~~ ~~~
Q1は、もちろん初めて見たので、非常に参考になった。
吉田羊のハムレットは、期待通りで、さすがとしか言いようがない。
かつてポーランドの女優がハムレットを演じたのを見たことがあるが、女性が演じたのを見たのはその時の一回きりだ。
私の好きな麻美れいもやったようだが、その時のうたい文句が「歌うハムレット」だったので、恐れをなして行かなかった。
ハムレットには絶対に歌って欲しくないので。
吉田のハムレットは、知的で美しく、声もよく、饒舌、情熱的で、動きも軽快、カッコよくて魅力的で惚れ惚れする。
ただ、すでに書いたように、今回主役以外のキャスティングが良くないのが残念だ。
ポローニアス役の佐藤誓も、もちろん達者だが、あまりに元気そうに見える。
もう少し、年寄り感が欲しい。
オフィーリア役の飯豊まりえだけは良かった。






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