阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

カンボジア総選挙は自由・公正だったのか?ー最先端の選挙制度と後退した民主主義

2018年08月04日 11時50分16秒 | 政治

 7月29日にカンボジア総選挙が行われ、与党人民党が125議席全てを獲得する見込みになりました。非公式の集計によると人民党は約480万票を獲得。次点であるフンシンペック党の約37万票を大きく引き離しています。投票率は82.89%。有効得票の76.78%を人民党が獲得したことになります。一方、無効票は前回比でおよそ6倍に増え全国で約60万票。首都プノンペンでは14.52%が無効票でした。無効票の中には前回の総選挙で接戦を演じ、昨年11月、国家転覆を図ったとして解党に追い込まれた野党第一党CNRPの名前が書かれたものが数多く見られました。選択肢のない選挙に対する国民の怒り、無力感を強く感じました。(選挙管理委員会の公式発表は8月11日です)

 私がカンボジアの総選挙に関わるのは1993年以来、今回が5回目です。1992~1993年にかけて国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の一員として自分自身が選挙人登録を指導する立場にいて、当時戸籍のなかったカンボジアにおいては選挙人登録に不正が行われる余地があることを実感。その後の選挙でも野党側だけでなく、国民の多くから二重登録など選挙人登録の不正が指摘され続けてきました。

 そんな経験に基づき、衆議院議員だった時には、カンボジアと日本双方の閣僚や議会の要職にある人々などに選挙人登録の電子化を働きかけました。結果、国民IDを電子化して選挙管理委員会のホストコンピューターに情報を連結する形で実現し、生体認証による本人確認、スマートフォン上で投票場所の確認ができること、開票所ごとに選挙結果をウェブ上で確認ができることなど先端の技術が導入されました。

 生体認証によって個人を識別できるようになった結果、前回2013年の総選挙で967万人だった有権者は838万人に大幅に減りました。また、地方選挙の選挙人登録者も2012年の920万人から2017年の787万人に大きく減っています。

 2013年の総選挙では与党人民党の得票率は48.83%で獲得議席は68議席。野党救国党は44.46%で55議席でした。救国党や一部の国際選挙監視チームは、二重投票が数多く行われ選挙結果に影響を与えた可能性を強く指摘しています。より正確な有権者数で行われていれば2013年の選挙結果は変わっていたかもしれません。

 欧米諸国は野党第一党を国家転覆を図ったとして解党させ、国民の選択肢を奪う結果になったことに対し厳しい見方を示しています。アメリカの下院がフン・セン首相などに対する入国制限等の制裁法案を可決しました。ホワイトハウスは今回の選挙は「自由でも公正でもない欠陥的な選挙である」との声明を発表しています。またEUは関税の優遇措置の撤廃を検討中で、これが実行されると欧米への輸出依存度が高い繊維産業に大きな打撃を与えることになります。

 カンボジア和平は日本が平和構築と民主化支援に大きく関わり一定の成果を挙げた唯一のサクセスストーリーと言えるでしょう。しかし、国連が史上初めて暫定的な統治を行い、世界各国が協力して目指した理想に比べて現実はどうか。問題点については厳しく指摘し、進歩した点については評価する。それが、国連ボランティア中田厚仁氏、文民警察官高田晴行氏が勤務中に襲撃を受け殺害される犠牲を払いながらもカンボジア和平をリードした日本の責任だと思います。今回の選挙に公式見解を示さない判断をした日本政府の態度は責任放棄だと思わざるを得ません。

 投票日の夜は、日本から唯一駆け付けた国会議員である藤田幸久参議院議員をはじめ、カンボジアに数十年関わってきた方々と意見交換をしました。考え方は様々でも人生を懸けてカンボジアに向き合ってきた本気の思いを熱く感じ、これからも向き合っていく思いを新たにしました。


選挙監視員としてのIDカードを見せた上で、名前を書いて投票所に入ります。


投票所の警備を行う警察官の責任者にヒアリングを行っています。

↓投票に来た人々は慣れた様子で列を作っています。


↓開票状況を監視するため投票所に入ろうとすると、二つの投票所で警察官に止められました。投票所の責任者に確認した後、入場を許されますが、しばらく足止めをされました。監視活動について十分に理解されていなかったようです。


↓人民党系のNGOの選挙監視員たちは、無効票を数えていました。



投票結果は人民党の圧勝でした。この投票所では無効票は報告されていませんでした。


投票日の夜は、長くカンボジアに関わってきた仲間たちとこの国の民主主義について議論