オバマ大統領が米国大統領としては88年ぶりにキューバを訪問。国民の多くは経済発展の契機になると歓迎しているようです。オバマ大統領にとっても国交回復は大きな業績(レガシー)でしょう。会談では人権問題について激しい応酬があったとも報道されていますが、本音で意見交換できるのは解決への第一歩。これからのキューバがどのように変わっていくのか、注視していきたいと思います。仲介役を務めたオルテガ枢機卿の役割についても研究していきます。
私は昨年10月、19年ぶりにキューバを訪問しましたが、街を歩くと40~50年代の米国のクラシックカーは未だ現役。ダッジやビュイック、さらに1920年代の箱型のフォードまで現役タクシーとして活躍しています。長年続いた新車800%、中古車は1600%の関税の影響です。もっともエンジンの9割は替わっていて、多くはスクラップされる日本の中古車のディーゼルエンジンに積み替えられているそうです。一方、地方に行けば未だに馬車が公共交通機関の主力です。
キューバは医療、教育・スポーツ大国で、人間開発指数は世界5位とのこと。人口あたりのオリンピックのメダル獲得は世界1位。引き締まった体の健康な人が多く、平均寿命も米国、カナダ以上です。ハバナ大学医学部に留学しているエクアドル人女性(写真)に話を聞いたのですが、医療機器などは十分ではなく、医療技術自体が特別進んでいるわけではないけれど、個人・地域に密着した家庭医のような医療・健康システムが素晴らしいそうです。また、南米の無医村などに述べ5万人を派遣し、医療外交で米国とは違う価値観をリードする政治大国としての発言力を確保してきたそうです。この国は理念、理想を追うしたたかな国であり、米国が望むようには簡単に変わらず、これまで培ってきた価値を重視した独自の歩みを取るのでは?と私は考えています。
キューバ革命を主導し、長く権力の頂点に立ったフィデル・カストロ前議長は、革命のアイディアリスト(理想主義者)、今のラウル・カストロ議長は革命のリアリスト(現実主義者)と言われます。ちなみに、キューバ革命の英雄でアルゼンチン人の医師だったチェ・ゲバラは革命のロマンティストと言われます。非常にわかりやすい表現だと思いますが、ラウル・カストロ議長は2018年には退任。革命世代は揃って引退。地方から上がってきたテクノクラートであるディアス・カネル第一副議長(53)が、後継者になる予定だそうです。
キューバ革命は、そのプロセスが多くのことを教えてくれます。19年前の訪問はまさに、そのモラルや手法に迫ることが目的でした。リーダーのフィデル・カストロ自身の高いモラルと、そのモラルをゲリラ戦士と共有できたことが勝利の源。その後、半世紀あまり『武士は食わねど高楊枝』の精神がリーダーによって半世紀も貫かれたことが、この国を世界でも特別な国にしていると思います。
ゲリラ兵士たちはどんなに苦しい状況でも決して略奪はせず、農民たちを教育し、学校を作り、ラジオ局を作り、病気に苦しむ患者は治療するというモラルが農民たちの中で圧倒的な共感として広がったことが変えた歴史。その象徴がチェ・ゲバラです。決して孤高の存在でもなく、極めて人間的なエピソードも含め彼に対する愛を国民が共有していることを感じます。たった12人の若者による革命が成功した要因だと思います。
「戦いの後、投降した敵の兵士の治療は徹底的に行って、村に送り返せ!」このようなフィデルの指示に、貴重な医療品は貧しい農民のために取っておくべきだと最初はチェ・ゲバラは反発していたようですが…。
このような歴史に基づく独自の政策と地位が、まるでタイムスリップしたような景観を残し、今では観光資源になっているのもまた皮肉なことです。昨年は350万人の観光客が訪れたそうです。米国との国交回復で飛躍的に伸びることでしょうね。
印象的なのはどこへ行ってもお土産としてチェ・ゲバラグッズがあふれかえっていること。一方でフィデル・カストロの肖像や銅像は全くと言ってもいいほどありません。彼自身が偶像化することを強く禁止しているからだと聞きました。チェ・ゲバラの絵は民家にさりげなく描かれていたり、子供がペンダントとして首から下げていたり、若者が入れ墨をしていたりしています。今や商業主義の象徴になっているとは本人はきっと苦笑いしていることでしょうね。しかし、でも、彼のような精神を持つ人間が国家のアイデンティティーになっていることはキューバ人にとっても誇りなんだろうなと思います。本人はアルゼンチン人であったとしても…。
私もチェ・ゲバラを購入。これまで10枚以上持っていますが、デザインは格段に向上してきました。
革命博物館の前に停められたクラシックカー
私の『通訳』も務めてくれたエクアドル人医師と父親
米国政府は人権問題が経済制裁の大きな要因と訴えてきました(NHKテレビより)
仲介役を務めたオルテガ枢機卿(NHKテレビより)