初恋
まだあげ初めし 前髪の
林檎のもとに 見えしとき
前にさしたる・・・
島崎藤村 作詞、若松甲 作曲、舟木一夫 歌
先日、信州のある温泉宿に宿泊した時この「初恋」を歌った。
明治30年(1897年)に島崎藤村が処女詩集「若菜集」に発表した詩に、若松氏が附曲し、舟木一夫が歌ってヒットしたもの。
室内はシーンと静まりかえり、みんな真剣に聴いてくれていたのが印象に残った。
詩の意味を私なりに解釈すると、
まだアップしたばかりのあなたの前髪
その姿を赤いリンゴの木の下で見た時
あなたの前髪に挿した花櫛の花のように
あなたのことを美しいなとほんとうに思いました
島崎藤村は明治5年2月、長野県の馬籠で生まれ、明治14年9歳で上京する。
20歳の時に英語の先生となり、明治29年9月に仙台市に一年ちょっとほど移り住んだ。その時に詩作を始め、まもなく若菜集を発表したようだ。ということはこの詩は明治29年か30年の秋に仙台で書かれたのだろうと私は推測する。おそらく彼が故郷の馬籠を偲んで書いた作品であろう。ひょっとすると仙台近郊の林檎園で実際に出会った少女に想いをはせて、それに故郷のイメージを重ね合わせての詩なのかもしれない。
その後島崎藤村は明治32年の4月、27歳の時に小諸義塾の教師として信州小諸に赴任している。あんずがちょうど咲き始める頃だ。モクレン、コブシ、梅、桃、桜、菜の花、そして林檎の花▪▪▪。
初めて訪ねたこの地で藤村は何を思ったことだろうか。北信濃の花々のやさしさはきっと彼の目にもすがすがしく映ったことと思う。
この小諸滞在6年の間に次々と名詩を発表しているが、その後は詩作をぷっつりと止め、小説の世界へと入っていく藤村。
またいつか機会があったら、「椰子の実」「惜別の歌」などを歌ってみたいなと思う。
「童謡唱歌 歌謡曲など(24)島崎藤村作詞の初恋を歌う」