【 2016年1月14日 】 TOHOシネマズ二条
中途半端な時間ができたので、なんとなく映画館に行った。予備知識もなく、見た映画は『フランス組曲』。この映画がなんとも素晴らしかった。
今年の年頭は映画に恵まれている。先日の『黄金のアデーレ』も『独裁者と小さな孫』も『草原の実験』もよかった。ブログを書くのが追いつかない。
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映画の《キャッチコピー》では、例のように【愛の物語】と男と女の《愛》を強調しているが、そんな《生易しいもの》に矮小化できるものではない。【戦争と平和】、【国家と個人】、【階級制度と格差】、【民族と偏見】-そうしたものがすべて絡み合った中での【人類愛】である。
1940年、戦禍の迫ったフランス・パリ郊外の田舎町。舘の女主・アンジェリエ夫人とその娘であるリュシルが領地に点在する農家から小作料を徴収する場面から映画が始まる。その帰り道、パリからの避難民が続々やってくる列に車の進行が妨げられる。その行列に急に現れたドイツ軍の戦闘機が襲い掛かる。
フランスはパリを明け渡し、ナチス・ドイツに降伏する。その田舎町にもドイツ軍が進駐してくる。
アンジェリエ夫人の大きな屋敷も将校の詰所として提供される。そこから息苦しい生活が始まる。
リュシルの部屋が中尉ブルーノの執務室に使われたが、そこにはリュシルのピアノが置いてあった。ある晩、その部屋から聴いたことのないピアノの旋律が聞こえてくる。
【 リュシル:ミッシェル・ウィリアムズ 】
緊張の生活の中に心をほぐしてくれる美しい調べ。ドイツ人の将校がピアノを弾いてそれに惹かれるという話、前にもあった-『戦場のピアニスト』。前の映画では、《鬼畜のようなナチス》と《ピアノの名手》という組み合わせがいかにも不似合で不自然極まりない感じがして映画自体も好きではなかったが、今度の映画では、【国家体制と個人の生き方】の矛盾が感じられ、自然に受け入れることができる。
(ところでこの女性、どこかで見た顔と思って考えると、『ブロークバック・マウンティン』でヒース・レジャーの妻役だった人だ。)
『鉄路の戦い』から始まり『野獣たちのバラード』、『アウシュビッツの女囚たち』、『シンドラーのリスト』、『サンドイッチの年』、『ソフィーの選択』、『ピエロの赤い鼻』、『黄色い星印の子供たち』、『サラの鍵』、『ふたりのトスカーナ』、『パティニョールおじさん』、『蝶の舌』、『ボクの神様』、よく知られたところでは『禁じられた遊び』、『独裁者』、『サウンド・オブ・ミュージック』などとナチの暴虐ぶりを描いた映画は数えきれないほど見てきたが、これまでの映画にも増して自然な描写で説得力のある内容になっている。
リュシルの微妙な心の変化の描写も見事だが、周囲の人の個性の描写も素晴らしい。中でもアンジェリエ夫人の変容と、追われている人や迫害されている人を匿い毅然とした態度で権力に立ち向かっていく姿は『こどもの頃、戦争があった』で地域の豪農の女主人を演じ、官憲に毅然とした態度を貫く「三益愛子」の名演技を思い起こす。
【 アンジェリエ夫人:スコット・トーマス 】
この映画の原作者は誰で、どんな経過で作られたか、家に戻りパンフレットやインターネットで調べてみると、公式サイトに以下の記事があった。
そうだったのか。こういう小説があったことも知らなかったが、自身がアウシュビッツに送られるまでのわずかな期間に、これだけのものを書き上げたことを考えると余計熱いものを感じた。
『フランス組曲』-公式サイト