7月7日は「七夕」。一年に一度、織姫と彦星が再会する大切な日です。古来より、星空や宇宙はさまざまな創造の源となってきました。みなさんは、この星空に何を思うでしょう?
岩手の文人・宮沢賢治は、星空に着想を得て、童話「銀河鉄道の夜」を執筆しました。夏の天頂に鎮座する天の川、その中央に大きく翼を広げる白鳥座は、主人公・ジョバンニとその親友・カムパネルラの旅の始発点です。北十字星から南十字星までの幻想的な銀河の旅路を、宮沢賢治は思索の中に描き出しました。
賢治は「銀河鉄道の夜」を完成させることなくこの世を去りましたが、未完のこの大作に、どんな思いを込めたのでしょうか。
カムパネルラは、川で溺れた同級生のザネリを助けるために死んでいます。人の命を救うためには自分の命を捨てるという、自己犠牲を象徴する人物として描かれています。「誰だって、ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸せなんだねえ」カムパネルラはそう呟きます。他人を思いやる気持ちを大切にし、実践すれば、命を失った後に天上界へ向かうことができるという、利他の精神を重んじた賢治の信念が感じられます。
物語の終盤、ジョバンニは銀河鉄道の旅の夢から目覚め、親友の死を知ります。呆然としながらも、自分の帰りを待っているお母さんの元に帰ろうと、一目散に家に向かって走り出す…。この光景の描写で「銀河鉄道の夜」はおしまいです。もう会えない親友の「死」ではなく、生きている大切な家族の「生」に目を向けたこの童話の帰結は、「今生きている愛する人を慈しみ、大切にする」こと、それが宮沢賢治の求めた「ほんとうのさいわい」であるというメッセージなのではないでしょうか。
受けとめ方は千差万別あるでしょう。夏の星空を見上げた時には、ぜひ、「銀河鉄道の夜」を思い出して、自分なりの物語の世界を楽しんでみてくださいね。
<参考>
宮沢賢治(1996)『銀河鉄道の夜』株式会社KADOKAWA
上田哲・関山房兵・大矢邦宣・池野正樹(1996)『新装版 図説 宮沢賢治』河出書房新社,p107