「いじめに遭って学校へ行けなくなった。一番困ることは、数の計算ができないこと。」
「一般常識を学びたい。落ちこぼれた分を取り戻したい。」……
今、様々な事情で義務教育を受けられなかった人の学び直しの場として、夜間中学校の開校が望まれています。公立夜間中学校とは、文字どおり、夜に通える中学校です。病気や不登校で十分に学べなかった人や、母国で義務教育を受けられなかった外国人の受け皿となる学びの場です。
奈良県橿原(かしはら)市立畝傍(うねび)夜間中学校に通う最高齢の生徒である90代のAさんは、学校で開催されたエッセーの発表会で、子ども時代を振り返り、「戦争は 絶対したらあかん。なんぼ はらたっても戦争だけはしたらあかん」と語りました。Aさんは、妹の世話のため小学校には3年生までしか通えず、6年生から縫製工場で働き、空襲で家を失いました。読み書きに自信がないまま子ども達を育て上げたあと、75年越しで中学生になりました。「本当に先生方にお世話になり、楽しく勉強させてもらってます」と話します。
2022年5月の国勢調査の結果では、義務教育の未修了者が全国で約90万人いることがわかりました。Aさんのような高齢者ばかりではなく、不登校や外国人であるために勉強の機会が得られない人々もたくさんいます。義務教育が受けられることは、当たり前ではないのですね。文部科学省は少なくとも各都道府県・指定都市に1校は夜間中学校を設置するよう促していますが、夜間中学校は2022年時点では15都道府県に40校しかありません。夜間中学校への入学希望者がどれだけいるか、需要を把握しきれず、開校をためらう自治体もあります。
大阪府天王寺夜間中学校の生徒会長を務める60代のBさんは、「学校がなくなると、仕事の都合や家庭の事情で通えなくなる生徒が多い。読み書きやいろんな勉強ができる夜間中学は私たちにとって『命』なんです。」と話しています。「勉強したい。」その「命」の叫びが、自治体を動かす力になると信じたいですね。
参考文献
朝日新聞 「学び直し」ニーズが見えにくい?公立夜間中学校開設をためらう自治体 2022.3.24
朝日新聞 変わる夜間中学校 変わらぬ学び 2022.11.5