参入相次ぐ 国産オリーブ競争
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1 NHK 参入相次ぐ 国産オリーブ競争
参入相次ぐ 国産オリーブ競争
2019年11月1日 20時48分
香川県のみやげ物店で売れ行きがよいもの、何だと思いますか?
うどんはもちろんですが、実は、小豆島で収穫されたオリーブを使ったハンドクリームや化粧品も人気です。小豆島は、国産オリーブ発祥の地とされ、国内最大の収穫量を誇るトップランナーです。しかし、その圧倒的な地位が脅かされるかもしれない変化も出てきています。(高松放送局記者 池田昌平)
国産オリーブ けん引してきた小豆島
海外産のオリーブと比べて生産量は少ないものの、質の高さが売りとなっている国産のオリーブ。その最大の産地が瀬戸内海にある香川県の小豆島です。
明治41年(1908年)に国がオリーブの栽培試験を始めて以降、国産オリーブの生産が盛んになり、小豆島を含む香川県のオリーブの収穫量は平成28年の統計でおよそ380トン。
国産オリーブの収穫量の9割以上を占めています。
ここで作られるオリーブは加工されて、オリーブオイルをはじめ、化粧品、ハンドクリームなどさまざまな形で売られ、人気を集めています。
参入相次ぐ オリーブ栽培
小豆島が長年、けん引してきた国産オリーブのビジネスですが、いま、状況に変化の兆しが出てきています。
その主な要因がオリーブオイルの人気の高まりです。
日本植物油協会によりますと、平成29年に国内に供給されたオリーブオイルの量は5万7000トンと、この20年近くで2倍以上に急増しています。
こうした需要を新たな収益源にしようと、いま全国でオリーブ栽培への参入が相次いでいます。
平成18年には、国内でオリーブを栽培しているのは、香川と岡山の2県だけでしたが、平成28年には北は宮城県から南は鹿児島県まで全国14県に広がりました。
“小豆島に追いつき追い越せ”
“小豆島に追いつき追い越せ”
なぜオリーブの栽培に参入が相次いでいるのか。
その理由を探ろうと、広島県の主要な産地、江田島市を訪ねました。
海上自衛隊の学校に旧海軍の歴史が伝わるこの地で、オリーブ栽培の中心的な役割を担う会社「江田島オリーブ」が事業を始めたのは11年前のことです。
会社を訪ねると、専務の寺本克彦さんが、広さ13ヘクタールのオリーブ園の一角を案内してくれました。
園内には美しい緑色のオリーブが数多く実をつけていました。
「江田島オリーブ] 寺本克彦専務
「小豆島に追いつき追い越せというのが目標だった」
寺本さんは栽培を始めた頃をこう振り返ります。
小豆島産のオリーブと差をつけたいと、考えた方法が無農薬栽培です。
すべての作業を機械を使わずに手作業で行い、栄養があるとされる広島産のカキの貝殻を肥料として土壌を改良するなど、広島ならではの工夫も施しています。
鮮度を落とさないよう収穫した実はその日のうちに搾油。
ことし4月には、イタリアで開かれたオリーブオイルの国際コンテストで入賞し、高い評価を得ました。
寺本さんは今後もオリーブオイルの需要は高まり、ビジネスの可能性は広がっていくと考えています。
「小豆島を追い越すためには差別化をしないといけない。地元の農家と一緒に勉強会を重ねながら収穫量を増やしていきたい」(寺本克彦さん)
江田島市も、オリーブの栽培は耕作放棄地の活用にもつながることから、地域の特産品にしようと力を入れています。
育てたオリーブの苗を地元の農家に安く販売することでオリーブの栽培地を広げ、今から5年後には市内でおよそ200トンの収穫量を目指しています。
迎え撃つ小豆島 品質を高める戦略も
迎え撃つ小豆島 品質を高める戦略も
“オリーブ発祥の地”の石碑 小豆島
こうした状況に危機感を強めている香川県の小豆島。
今後ほかの県でもオリーブの木が成長するにつれて収穫量が増加すると考え、量ではなく品質を高めて他の産地と差別化を図る動きが起きています。
小豆島にあるオリーブ生産会社の研究所の岸本憲人所長は、より健康によいオリーブオイルの開発に取り組んでいます。
東京の大学で脳神経の研究をしていた時にオリーブオイルが脳の再生に効果があるという論文を読み、6年前に小豆島に移住した岸本さん。注目しているのがオリーブオイルに含まれているポリフェノールです。
抗酸化作用があり、健康によいとされるポリフェノールを、できるだけ多く含むオリーブオイルを開発することで差別化を図ろうとしています。
「オリーブの実からは10%ほどしかオイルはとれないが、その中に希少価値の高いいろんな成分があり、深めていく価値はあるということでどんどん調べていった」(岸本憲人さん)
オリーブの実に含まれるポリフェノールの含有量は、品種だけでなく収穫時期によっても異なります。
岸本さんは20種類のオリーブをそれぞれ収穫時期を細かくずらしながら、実に含まれるポリフェノールの量を測定し、最も多くなる品種や収穫時期など最適な条件を調べました。
その結果、ことしになってポリフェノールが通常のものより2倍以上多いオリーブオイルの商品化に成功。
「血中の悪玉コレステロールの酸化を抑制する」とうたって、オリーブオイルとしては初めての「機能性表示食品」として販売しています。
さらに岸本さんは、オリーブの葉や枝に実よりも多くのポリフェノールが含まれていることが分かっていることから、そこから抽出したポリフェノールで化粧品を開発しています。
今後もオリーブの実や葉などから健康によい成分をできるだけ取り出すことを目指して研究を続けていく考えです。
オリーブ健康科学研究所 岸本憲人所長
「他県も技術が向上してくるので、いずれ似たような商品が販売されたり、収穫量でも小豆島が抜かれてしまうことも出てくるかもしれない。オリーブの栽培が広がっているからこそ、国産オリーブ発祥の地、小豆島はオリーブのフロントランナーを目指すべきだ」
オリーブビジネスに注目
オリーブビジネスの取材を始めたきっかけは、ことしの春、小豆島で岸本さんに出会ったことでした。
全国でオリーブ栽培に参入が相次ぎ、しかも、高品質のオリーブオイルが次々とつくられていることを初めて知って驚きました。
取材を進めるにつれて、オリーブの奧の深さや可能性を感じるようになりました。
香川県ではオリーブを活用したブランド食品が数多くつくられています。国産オリーブのビジネスのこれからを今後も注目していきたいと思います。
高松放送局記者
池田 昌平
平成27年入局
警察・行政を担当した後
現在は経済などを取材
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1 NHK 参入相次ぐ 国産オリーブ競争
参入相次ぐ 国産オリーブ競争
2019年11月1日 20時48分
香川県のみやげ物店で売れ行きがよいもの、何だと思いますか?
うどんはもちろんですが、実は、小豆島で収穫されたオリーブを使ったハンドクリームや化粧品も人気です。小豆島は、国産オリーブ発祥の地とされ、国内最大の収穫量を誇るトップランナーです。しかし、その圧倒的な地位が脅かされるかもしれない変化も出てきています。(高松放送局記者 池田昌平)
国産オリーブ けん引してきた小豆島
海外産のオリーブと比べて生産量は少ないものの、質の高さが売りとなっている国産のオリーブ。その最大の産地が瀬戸内海にある香川県の小豆島です。
明治41年(1908年)に国がオリーブの栽培試験を始めて以降、国産オリーブの生産が盛んになり、小豆島を含む香川県のオリーブの収穫量は平成28年の統計でおよそ380トン。
国産オリーブの収穫量の9割以上を占めています。
ここで作られるオリーブは加工されて、オリーブオイルをはじめ、化粧品、ハンドクリームなどさまざまな形で売られ、人気を集めています。
参入相次ぐ オリーブ栽培
小豆島が長年、けん引してきた国産オリーブのビジネスですが、いま、状況に変化の兆しが出てきています。
その主な要因がオリーブオイルの人気の高まりです。
日本植物油協会によりますと、平成29年に国内に供給されたオリーブオイルの量は5万7000トンと、この20年近くで2倍以上に急増しています。
こうした需要を新たな収益源にしようと、いま全国でオリーブ栽培への参入が相次いでいます。
平成18年には、国内でオリーブを栽培しているのは、香川と岡山の2県だけでしたが、平成28年には北は宮城県から南は鹿児島県まで全国14県に広がりました。
“小豆島に追いつき追い越せ”
“小豆島に追いつき追い越せ”
なぜオリーブの栽培に参入が相次いでいるのか。
その理由を探ろうと、広島県の主要な産地、江田島市を訪ねました。
海上自衛隊の学校に旧海軍の歴史が伝わるこの地で、オリーブ栽培の中心的な役割を担う会社「江田島オリーブ」が事業を始めたのは11年前のことです。
会社を訪ねると、専務の寺本克彦さんが、広さ13ヘクタールのオリーブ園の一角を案内してくれました。
園内には美しい緑色のオリーブが数多く実をつけていました。
「江田島オリーブ] 寺本克彦専務
「小豆島に追いつき追い越せというのが目標だった」
寺本さんは栽培を始めた頃をこう振り返ります。
小豆島産のオリーブと差をつけたいと、考えた方法が無農薬栽培です。
すべての作業を機械を使わずに手作業で行い、栄養があるとされる広島産のカキの貝殻を肥料として土壌を改良するなど、広島ならではの工夫も施しています。
鮮度を落とさないよう収穫した実はその日のうちに搾油。
ことし4月には、イタリアで開かれたオリーブオイルの国際コンテストで入賞し、高い評価を得ました。
寺本さんは今後もオリーブオイルの需要は高まり、ビジネスの可能性は広がっていくと考えています。
「小豆島を追い越すためには差別化をしないといけない。地元の農家と一緒に勉強会を重ねながら収穫量を増やしていきたい」(寺本克彦さん)
江田島市も、オリーブの栽培は耕作放棄地の活用にもつながることから、地域の特産品にしようと力を入れています。
育てたオリーブの苗を地元の農家に安く販売することでオリーブの栽培地を広げ、今から5年後には市内でおよそ200トンの収穫量を目指しています。
迎え撃つ小豆島 品質を高める戦略も
迎え撃つ小豆島 品質を高める戦略も
“オリーブ発祥の地”の石碑 小豆島
こうした状況に危機感を強めている香川県の小豆島。
今後ほかの県でもオリーブの木が成長するにつれて収穫量が増加すると考え、量ではなく品質を高めて他の産地と差別化を図る動きが起きています。
小豆島にあるオリーブ生産会社の研究所の岸本憲人所長は、より健康によいオリーブオイルの開発に取り組んでいます。
東京の大学で脳神経の研究をしていた時にオリーブオイルが脳の再生に効果があるという論文を読み、6年前に小豆島に移住した岸本さん。注目しているのがオリーブオイルに含まれているポリフェノールです。
抗酸化作用があり、健康によいとされるポリフェノールを、できるだけ多く含むオリーブオイルを開発することで差別化を図ろうとしています。
「オリーブの実からは10%ほどしかオイルはとれないが、その中に希少価値の高いいろんな成分があり、深めていく価値はあるということでどんどん調べていった」(岸本憲人さん)
オリーブの実に含まれるポリフェノールの含有量は、品種だけでなく収穫時期によっても異なります。
岸本さんは20種類のオリーブをそれぞれ収穫時期を細かくずらしながら、実に含まれるポリフェノールの量を測定し、最も多くなる品種や収穫時期など最適な条件を調べました。
その結果、ことしになってポリフェノールが通常のものより2倍以上多いオリーブオイルの商品化に成功。
「血中の悪玉コレステロールの酸化を抑制する」とうたって、オリーブオイルとしては初めての「機能性表示食品」として販売しています。
さらに岸本さんは、オリーブの葉や枝に実よりも多くのポリフェノールが含まれていることが分かっていることから、そこから抽出したポリフェノールで化粧品を開発しています。
今後もオリーブの実や葉などから健康によい成分をできるだけ取り出すことを目指して研究を続けていく考えです。
オリーブ健康科学研究所 岸本憲人所長
「他県も技術が向上してくるので、いずれ似たような商品が販売されたり、収穫量でも小豆島が抜かれてしまうことも出てくるかもしれない。オリーブの栽培が広がっているからこそ、国産オリーブ発祥の地、小豆島はオリーブのフロントランナーを目指すべきだ」
オリーブビジネスに注目
オリーブビジネスの取材を始めたきっかけは、ことしの春、小豆島で岸本さんに出会ったことでした。
全国でオリーブ栽培に参入が相次ぎ、しかも、高品質のオリーブオイルが次々とつくられていることを初めて知って驚きました。
取材を進めるにつれて、オリーブの奧の深さや可能性を感じるようになりました。
香川県ではオリーブを活用したブランド食品が数多くつくられています。国産オリーブのビジネスのこれからを今後も注目していきたいと思います。
高松放送局記者
池田 昌平
平成27年入局
警察・行政を担当した後
現在は経済などを取材